三浦泰村

三浦泰村（みうらやすむら）

三浦泰村は、鎌倉時代中期に活躍した武将であり、有力御家人である三浦義村の次男として生まれました。三浦氏は、源頼朝の挙兵に貢献したことから、相模国や河内国に広大な所領を持つ有力な一族でした。

生涯

承久の乱での活躍と元服

泰村は、武勇、特に弓術に秀でており、承久3年（1221年）の承久の乱では父・義村と共に幕府軍の一員として参戦し、その名を上げました。

元服の際には、烏帽子親である北条泰時（当時の執権・北条義時の子）から「泰」の字を賜り、泰村と名乗るようになりました。弓馬の腕に長けていた泰村は、放生会での流鏑馬や正月の弓始などの儀式で射手を務めることが多くありました。なお、兄には源実朝から偏諱を受けたと思われる朝村がおり、当初は朝村が嫡子であったと考えられます。

北条氏との関係と幕政への参加

泰村は、烏帽子親である北条泰時の娘を娶り、北条氏の一門衆となりました。暦仁元年（1238年）には幕府の評定衆の一員となり、幕政に参与するようになります。しかし、泰時の娘とその後妻とした泰時の妹（または娘）が相次いで亡くなり、その後、土御門定通の妹を娶りました。

北条氏との対立と宝治合戦

泰村は、三浦氏の勢力を拡大しようと、鎌倉幕府第4代将軍・九条頼経に接近し、北条氏を凌ぐほどの権勢を誇るようになりました。弟の光村も、5代将軍・九条頼嗣との関係を深めたため、執権・北条時頼から危険視されるようになります。

時頼は、泰村に政権中枢からの穏便な引退を望んでいましたが、寛元4年（1246年）に六波羅探題から北条重時を鎌倉へ呼び戻そうとした際、泰村はこれを拒否。このことが時頼や北条一門の心証を悪化させます。もし、重時の帰参を認めていれば、穏健派の重時が三浦氏に穏便な処置を講じていた可能性もありましたが、結果として、三浦氏排斥を主張する安達景盛に積極的に介入する機会を与えることとなりました。

宝治元年（1247年）、時頼と安達景盛の策謀により、泰村は鎌倉で挙兵します。しかし、この反乱は失敗に終わり、北条軍と安達軍に大敗。泰村は一族郎党と共に鎌倉の法華堂で自害し、その生涯を終えました。

人物

生年について

泰村の生年については諸説あります。『関東評定伝』では享年64歳とあり、1184年（元暦元年）生まれとなります。一方、『承久記』では、宇治橋合戦の場面で「生年18歳」と名乗っており、1204年（元久元年）生まれとなります。

近年の研究では、『承久記』の記述が妥当であると考えられています。1184年生まれとすると、父・義村が16歳頃に生まれたことになり、兄・朝村が既にいたこと、烏帽子親の北条泰時が1183年生まれであること、さらに宝治合戦で泰村と共に死亡した次男が13歳、九男が4歳であることなど、矛盾が生じるためです。

政治家としての側面

泰村は武勇に優れていましたが、他の御家人と対立したり、北条氏との方針で弟の光村と意見が合わないなど、政治家としては未熟な面がありました。また、安達氏が北条氏の外戚となったことで、幕府内での地位が三浦氏から安達氏に移り変わっていることに気づけず、それが三浦氏の孤立と滅亡を招いた一因となりました。

下河辺氏に対しても強い対抗意識を燃やし、度々対立していました。1241年には、泰村と下河辺行光が駿河国で相論を起こしています。これは、弓馬の儀礼を取り仕切っていた泰村が、秀郷流の故実に精通している下河辺氏の台頭に危機感を覚えたためだと考えられています。また、同年には三浦氏と小山氏の郎党が酒席で乱闘騒ぎを起こし、泰村の弟と小山氏の者が処分を受け、泰村も叱責されています。宝治合戦直前には、泰村自身が闘鶏会の席で喧嘩騒ぎを起こしたとも伝えられています。

精神的な弱さ

有名な話として、宝治合戦の直前、北条時頼らとの和睦が成立しかけていた時、緊張のあまり食べていた湯漬けを嘔吐したという話があります。これは恐怖からではなく、合戦回避のために精神を働かせた結果、極度の緊張から生じたものであろうと解釈されています。

承久の乱や儀式で武術の腕前を披露した泰村ですが、非常時や切迫した状況下では判断力が鈍くなる人物でした。永井晋は「武者としては一流であるが、武将としての才能には恵まれていなかった」と評しています。

参考文献

永井晋『鎌倉幕府の転換点「吾妻鏡」を読み直す』 (NHKブックス、2000年) ISBN 4-14-001904-2
北条氏研究会編『北条氏系譜人名事典』(新人物往来社、2001年) ISBN 4-404-02908-X
安田元久編『鎌倉・室町人名事典』(新人物往来社、1990年) ISBN 978-4-404-01757-4
上横手雅敬『北条泰時』(吉川弘文館、1958年) ISBN 978-4-642-05135-4