上杉禅秀

上杉禅秀（うえすぎ ぜんしゅう）

上杉氏憲（うえすぎ うじのり）、通称上杉禅秀は、室町時代前期に活躍した武将であり、犬懸（いぬがけ）上杉家の当主として守護大名、さらには関東管領の要職を務めた人物です。禅秀とは、彼が出家した後の名です。

生涯

父である上杉朝宗（ともむね）が長きにわたり家中を率いたため、氏憲の若い頃の活動は必ずしも顕著ではありませんでした。しかし、応永9年（1402年）には奥州から侵攻してきた伊達政宗を打ち破り、武功を挙げています。鎌倉府（かまくらふ）が派遣した稲村（いなむら）公方足利満貞（あしかが みつさだ）とは対立する一方、その兄である篠川（ささかわ）公方足利満直（あしかが みつなお）とは協調関係を築き、奥州における犬懸上杉家の影響力拡大に努めました。また、応永16年（1409年）には、鎌倉公方足利満兼（あしかが みつかね）が新しい館に移る際の儀式で惣奉行（そうぶぎょう）を務めるなど、犬懸上杉家の後継者として鎌倉府内でもその存在感を増していきました。さらに、朝宗には娘がいなかったことから、犬懸上杉家の婚姻による勢力拡大戦略は、氏憲が中心となって展開されたことが知られています。

応永16年（1409年）、鎌倉公方足利満兼が死去し、父朝宗が隠居・出家したのに伴い、氏憲は犬懸上杉家の家督を継ぎました。彼の正確な生年は不明ですが、この時点で40代に達していたと推測されます。応永18年（1411年）2月には、山内（やまのうち）上杉家の上杉憲定（のりさだ）の後を受け継ぎ、関東管領に就任。まだ若年であった鎌倉公方足利持氏（あしかが もちうじ）を補佐する立場となりました。しかし、持氏は次第に氏憲を煙たく思うようになり、氏憲と対立関係にあった憲定の子である憲基（のりもと）を重用するようになります。加えて、朝宗の時代から続く犬懸上杉家の急速な勢力拡大は、同じ上杉氏の中でも有力であった山内上杉家にとって大きな脅威となっていました。

上杉禅秀の乱

応永22年（1415年）、持氏は氏憲（禅秀）の家臣が公務に出仕しないことを理由として、禅秀の所領を没収する措置を取りました。これに対し禅秀は抗議し、同年5月に関東管領を辞任。持氏は後任に関東管領の座を憲基に継がせました。この仕打ちに強い不満を抱いた禅秀は、持氏の叔父にあたる満隆（みつたか）や、養嗣子でありながら持氏の弟でもある持仲（もちなか）らと図り、武力による反抗を決意します。彼らは挙兵し、鎌倉にあった持氏の居館を急襲。不意を突かれた持氏と憲基は、それぞれ駿河（するが）と越後（えちご）に逃亡し、禅秀は鎌倉の掌握に成功しました。これが世にいう「上杉禅秀の乱」です。

禅秀による鎌倉制圧に対し、室町幕府の4代将軍足利義持（あしかが よしもち）は、追放された持氏の救援を支持する姿勢を明確にしました。これにより、北からは山内上杉家の上杉房方（ふさかた）（憲基の伯父）、西からは今川範政（いまがわ のりまさ）を総大将とする幕府方の軍勢が鎌倉を目指して進撃してきました。禅秀は迎え撃つべく防戦に努めましたが、戦況が不利になるにつれて、味方として参陣していた武将たちの離反が相次ぎました。孤立無援となった禅秀は遂に抗戦を断念。応永24年（1417年）1月10日、共に挙兵した満隆や持仲らとともに、鎌倉鶴岡八幡宮（つるがおか はちまんぐう）の雪ノ下（ゆきのした）の坊において自刃し、壮絶な生涯を閉じました。これにより、およそ2年間に及んだ上杉禅秀の乱は終結しました。

この反乱には、禅秀が当主を務める犬懸上杉家のみならず、娘を娶らせて姻戚関係にあった千葉氏、岩松氏、那須氏、さらには妻の実家である武田氏、その他にも小田氏、宇都宮氏、山入氏など、関東地方の有力な大名や中小武士の多くが加わっていました。反政権勢力が鎌倉を舞台に政権中枢を一時的にせよ掌握した例は、この禅秀の乱以外にはありません。これは、敗北に終わったとはいえ、禅秀が持つ勢力の規模、そして周到に計画された作戦を実行する能力といった力量が高く評価されるべきであったことを示しています。

子息たち

上杉禅秀には非常に多くの子供がいたことが知られており、『上杉系図大概』には「御子男女共四十二人」という驚くべき記述が見えます。禅秀の乱で父と共に命を落とした息子もいました。

上杉憲方（うえすぎ のりかた）：伊予守を務めた彼は、応永6年（1399年）生まれとされます。乱の最中に父の病（仮病）を伝える使者として持氏を油断させようとしたといわれます。鎌倉を追放された持氏派の討伐に向かった足利持仲を補佐しましたが敗れ、鎌倉に戻り父と共に自刃しました。
上杉憲春（うえすぎ のりはる）：『寛政重修諸家譜』によれば山内上杉家の上杉憲基の猶子（ゆうし）となっていたといわれます。憲基は別に憲実を養子として山内上杉家を継がせています。
快尊（かいそん）：出家して僧となっていましたが、父と共に自刃しました。

一方で、乱の後も生き延びた息子たちもいます。

上杉憲秋（うえすぎ のりあき）：病のため乱から離脱し、京へ逃れて難を逃れました。しかし、後の享徳の乱（きょうとくのらん）の緒戦で敗れ、自刃しました。
上杉持房（もちふさ）：乱後、幕府に仕え、時の将軍足利義持から「持」の字を賜りました。彼はその後の永享の乱（えいきょうのらん）や結城合戦（ゆうきかっせん）に幕府軍として参加しています。
上杉教朝（のりとも）：兄の持房と同様に将軍家に出仕し、永享の乱や結城合戦で幕府方を務めました。彼は6代将軍足利義教（あしかが よしのり）から「教」の字を賜っています。

禅秀の多くの子供たちの運命は、父が起こした乱によって大きく左右されたと言えるでしょう。

もう一度検索