丘を越えて

丘を越えて

「丘を越えて」は、1931年（昭和6年）12月に日本コロムビアから発売された藤山一郎の代表的な昭和歌謡の一つです。新興キネマ制作の映画『姉』の主題歌として発表され、作詞は島田芳文、作曲は古賀政男が担当しました。この楽曲は、古賀政男自身の青春時代の思い出を基に作曲され、藤山一郎の歌唱によって大ヒットを記録し、彼の歌手としての地位を確立する上で重要な役割を果たしました。

概要

「丘を越えて」の原曲は、古賀政男が明治大学マンドリン倶楽部時代に作曲したマンドリン合奏曲「ピクニック」です。この曲に、作詞家の島田芳文が歌詞を付けたものが「丘を越えて」として発表されました。島田芳文は、群馬県吾妻郡長野原町北軽井沢の浅間牧場の風景からインスピレーションを得て歌詞を書き上げたとされています。現在、浅間牧場には「丘を越えて」の歌碑が建てられています。

「ピクニック」の着想の源となったのは、桜の名所として知られる稲田堤（現在の神奈川県川崎市多摩区）の多摩川河川敷と多摩丘陵の自然風景でした。2019年5月25日には、多摩川サイクリングコースが川崎市と東京都稲城市の間で延伸され、稲田堤の二ヶ領用水上河原取水口（多摩区布田）に「ピクニック橋」が開通しています。

古賀政男が明治大学マンドリン倶楽部の後輩と稲田堤へピクニックに出かけた際、満開の桜の下で酒を酌み交わし、下宿に戻ると学帽についた一枚の桜の花びらに気付きました。その花びらを見た時に、二度と戻らない若さと青春への愛おしさを感じ、湧き上がったメロディーを愛用のマンドリンで奏でたことが、この曲の誕生につながったと言われています。

稲田堤にある和菓子店「菓聖はしば」では、「丘を越えて」にちなんだ饅頭が名産品として販売されています。また、同店では多摩区の生田緑地内にある川崎市岡本太郎美術館にちなんだ土産菓子「TAROの夢もなか」も取り扱っています。JR南武線の稲田堤駅では、2023年8月の新駅舎使用開始に合わせて、発車メロディーが『丘を越えて』に変更されました。

渋谷区のコミュニティバス「ハチ公バス」の「丘を越えてルート」（上原・富ヶ谷ルート）は、古賀政男が晩年を過ごした渋谷区上原の古賀政男音楽博物館を経由することから名付けられました。

音源

オリジナル

藤山一郎は、豊かな声量と正確な歌唱で、古賀政男の青春の想いを高らかに歌い上げています。元々マンドリン合奏曲として作曲されたため、伴奏のマンドリンによる前奏が長く、間奏も前奏のフレーズが繰り返される構成となっています。そのため、藤山一郎が歌っている時間よりも伴奏の演奏時間の方が長く、ステレオ録音版ではさらに伴奏が長くなっています。発売当時、50〜60万枚の売上を記録しました。

カバー

「丘を越えて」は、多くのアーティストによってカバーされています。

矢野顕子 - 1976年7月発売のアルバム『JAPANESE GIRL』に収録。カバーのきっかけは、同年4月に藤山一郎が審査員を務めたNHKのオーディションでこの曲を披露し、藤山から高い評価を得たことでした。1998年の映画「卓球温泉」の主題歌としても使用されました。
1984年、トヨタ自動車「スターレット」のCMで藤山一郎のオリジナルバージョンが使用されました。ラジオCMの一部では前奏のみが流れていました。
2008年には、映画『丘を越えて』の主題歌としてつじあやのがカバーしました。
2015年には、トヨタ自動車「カローラフィールダー」・「カローラアクシオ」のCMソングとして、以下のアーティストによるカバーバージョンが使用されました。
木村拓哉（当時SMAP）
OKAMOTO'S
PUFFY
清水翔太
矢野顕子
細野晴臣
加藤ミリヤ
石川さゆり
マツコ・デラックス

小泉今日子が1990年に「丘を越えて」というタイトルの曲をリリースしていますが、同名異曲です。

関連項目

古賀政男
島田芳文
藤山一郎
明治大学マンドリン倶楽部
姉 (映画)
稲田堤
ハチ公バス#丘を越えてルート（上原・富ヶ谷ルート）

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