中房温泉

中房温泉：歴史と自然に抱かれた秘湯

長野県安曇野市に位置する中房温泉は、古くから湯治場として栄え、現在も多くの観光客や登山客で賑わう温泉地です。標高1462メートルの場所にあり、飛騨山脈（北アルプス）の表銀座、燕岳への登山口としても知られています。

歴史ある温泉と貴重な文化財

中房温泉の歴史は古く、江戸時代文政4年（1821年）に百瀬茂八郎がミョウバンの採取と合わせて湯小屋を営み始めたことに始まります。その後、明治時代にはミョウバンの採取を休止し、温泉業に専念。大正時代には6代目頭首である百瀬亥三松が、温泉地の大規模な開発構想を練り、プールやテニスコート、山小屋などを建設しました。その当時から残る建造物7棟は、国の登録有形文化財に指定されており、歴史の重みを感じさせます。

温泉地内には、明治時代中期の建築である本館菊をはじめ、旧湯会所、板倉、土蔵など、貴重な歴史的建造物が残り、当時の面影を今に伝えています。これらの建物は、近代の湯治場建築の好例として高く評価されています。また、嘉永元年（1848年）建築の田村薬師堂や、幕末建築の山神の社なども、温泉の歴史と文化を象徴する存在です。

さらに、中房温泉の膠状珪酸および珪華は、昭和3年に国の天然記念物に指定されています。膠状珪酸は、好熱性原核生物の集合体と含水珪酸が結合したもので、現在も活性の高い状態を保っており、世界的にも稀な存在です。珪華は、温泉水の流れに沿って層状に形成されたもので、これも現在もなお形成され続けている大規模なものです。

豊富な湯量と多様な浴場

中房温泉は、36ヶ所の源泉を持つ豊富な湯量を誇ります。セ氏90度にも達する高温の源泉を、空冷や水冷で適温に調整し、加水・加温・循環・着色・塩素消毒を一切行わず、源泉掛け流し100％の温泉を提供しています。

浴場は、本館（ロッジ）と新館（招仙閣）に数多くの浴槽が設けられています。大浴場、岩風呂、露天風呂、家族風呂（閉鎖中）、薬師の湯（解体済み）などがあり、趣の異なる様々な浴場を楽しむことができます。中でも、当地最古の湯である御座の湯は、かつてウォルター・ウェストンや松本藩藩主も利用した歴史ある浴槽です。

日帰り入浴専用の「湯原の湯」も2006年にオープンしており、合戦沢の転石を用いた浴槽は、趣向を凝らした造りとなっています。

その他、温泉大プール、滝の湯、月見の湯、根っこ風呂、蒸風呂、地熱浴場、綿の湯など、ユニークな浴場も揃っています。温泉大プールは、温泉水を湛えたプールで、夏季期間中は歩行浴なども楽しむことができます。宿から離れた場所にある根羽の湯や菩薩の湯、白滝の湯などの貸切風呂も存在します。

登山基地としての役割

中房温泉は、燕岳や槍ヶ岳への登山基地としての役割も果たしています。夏期には、多くの登山客が中房温泉を利用し、登山へと出発します。中房温泉から槍ヶ岳へと至る表銀座には、中房温泉が経営する槍ヶ岳殺生ヒュッテやヒュッテ西岳といった山小屋があり、登山者のサポートを行っています。

アクセス

中房温泉へのアクセスは、JR大糸線穂高駅からタクシーまたは路線バスで約40分です。自家用車の場合は、長野自動車道安曇野インターチェンジから約1時間です。4月下旬から11月半ばまでは、中房温泉行定期バスも運行されています。

まとめ

中房温泉は、歴史ある建物、豊富な湯量、そして美しい自然と、多くの魅力を兼ね備えた温泉地です。登山客はもちろん、温泉を楽しむ旅行者にとっても、忘れられない思い出となることでしょう。四季折々の景色を楽しむことができるのも、中房温泉の魅力の一つです。

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