中院文庫本源氏物語

中院文庫本源氏物語：中院家の源氏物語

中院文庫本源氏物語は、京都大学附属図書館の中院文庫に所蔵されている源氏物語の写本です。室町時代後期から江戸時代にかけて、源氏物語の注釈書『岷江入楚』の著者である中院通勝など、多くの源氏学者を輩出した中院家に伝来した歴史ある写本と言えるでしょう。

写本の概要

この写本は、列帖装の枡形本で、全54帖のうち花宴と葵の2帖が欠損しており、現在52帖が現存しています。書写は、中院通茂によるものと推定されています。各巻の奥書には書写日が記されており、例えば『桐壺』は1525年（大永5年）6月27日、『夢浮橋』は1531年（享禄4年）正月22日に書写が完了したとあります。しかし、その後も何度も校合が行われた形跡があり、巻末の墨書奥書には1649年（慶安2年）に校了したとの記述も残されています。

本文の特徴

中院文庫本は、青表紙本系統に属し、用字のわずかな違いを除けば、日本大学所蔵の三条西家本と非常に類似しています。1面10行であることだけでなく、字配り、合点、朱点、ミセケチに至るまで、三条西家本と一致する点が数多く見られます。

研究における位置づけ

『校異源氏物語』や『源氏物語大成校異編』、『源氏物語別本集成』といった主要な校本には採用されていませんが、本文研究の論文においては重要な資料として扱われています。研究者からは「京」という写本記号が用いられ、比較研究の対象となっています。その高い本文の正確性と、詳細な書写・校合の記録から、源氏物語研究において貴重な一次史料として位置付けられています。

寄贈と公開

この写本は、1923年（大正12年）12月28日、住友吉左衛門（15代）によって京都帝国大学（現在の京都大学）に寄贈されました。現在では、京都大学附属図書館の貴重書として大切に保管されており、デジタル化された画像がインターネット上で公開されているため、誰でも閲覧することが可能です。

中院家と源氏物語

中院家は大臣家格の公家であり、代々源氏物語の研究に携わってきました。中院文庫本は、そうした中院家の源氏物語研究の歴史を物語る貴重な証左と言えるでしょう。写本の本文だけでなく、書写者や校合に関わった人物、そしてその記録から、当時の学問的環境や研究方法なども推測することができるため、文献学的な価値も非常に高いです。

今後の研究

中院文庫本は、今後とも源氏物語の研究において重要な役割を果たすと考えられます。高精細なデジタル画像の公開により、より多くの研究者がアクセスしやすくなったことで、新たな知見が得られる可能性も期待されています。さらに、他の写本との詳細な比較研究を通じて、源氏物語成立史や本文の変遷に関する理解が深まることが期待されます。

もう一度検索