中院家

中院家：栄華と苦悩を刻んだ公家・華族の歴史

中院家（なかのいんけ）は、名門村上源氏久我家から分かれた公家であり、華族です。大臣家としての高い家格を誇り、華族として伯爵家に列せられました。その始まりは、久我家4代当主・源通親の五男、通方です。鎌倉時代初期に久我家から分家し、中院家を創設しました。家名の由来は、久我家2代当主・雅定が中院町（六条室町）に住まい、「中院右大臣」と称していたことにあります。

中世：栄光と苦難の時代

通方の嫡男、通成が内大臣に昇進したことで、中院家は内大臣を最高位とする大臣家の家格を確立しました。その後も、旧家としての格式と内々の家格を得て、高い地位を維持しました。中院家は歌道にも深く関わっており、2代通成、4代通重、5代通顕、8代通守など、勅撰集に作品が採録された歌人を多く輩出しました。6代通冬の日記『中院一品記』、10代通秀の日記『十輪院内府記』など、貴重な家記も多数残されています。

しかし、中世後期の公家社会は経済的に厳しい状況にありました。特に大臣家である中院家は、その家格を維持するために大きな苦労を強いられました。8代通守は、応永25年（1410年）、後小松上皇から春日祭の上卿を命じられましたが、経済的な理由から辞退せざるを得ませんでした。上皇の厳命にもかかわらず準備が整わず、家名を辱めることを恐れた通守は自害という悲劇的な最期を遂げました。戦国時代には、家領である加賀国で一向一揆が頻発し、年貢の滞納問題に直面。11代通世、12代通胤、13代通為の3代当主は、加賀国へ度々赴任し、通世と通為は現地で亡くなりました。

近世：武家との繋がりと文化への貢献

14代通勝は、天正8年（1580年）に正三位・権中納言の地位を捨てて出奔しましたが、細川幽斎に師事し、源氏学を研究。源氏物語の注釈書『岷江入楚』を著しました。江戸時代前期の15代通村は、武家伝奏として公武間の調停に尽力しましたが、寛永6年（1629年）の後水尾天皇の譲位問題で一時幽閉されるなど、波乱万丈な人生を送りました。彼は歌人、源氏学者としても有名で、後水尾天皇や徳川家康に源氏物語を講釈したと言われています。後水尾天皇譲位後は、上皇の側近として重用され、後水尾院歌壇を指導しました。17代通茂と18代通躬父子も霊元院歌壇の中心人物として活躍し、特に通躬は右大臣にまで昇進しました。通茂・通躬も通村と同様に武家伝奏を務め、公武間の調停に尽力しました。江戸時代の中院家の所領は、当初300石でしたが、幕末には500石に増加しました。菩提寺は廬山寺、江戸時代の屋敷は京都烏丸下長者町にありました。明治19年（1886年）、この屋敷跡に護王神社が建立されました。15代通村の母が細川幽斎の娘だったことから、近世には武家との縁組が盛んに行われました。近世後期には男子に恵まれず、久世家などから養嗣子を迎えることもありました。

近代以降：華族としての歩みと中院文庫

幕末から明治期の25代通富は、明治新政府の参与を務めました。明治2年（1869年）の華族制度成立に伴い、中院家は旧公家として華族に列しました。明治17年（1884年）の華族令で伯爵に叙せられました。2代伯爵の26代通規は、陸軍軍人として日露戦争で功績を挙げました。大正12年（1923年）、26代通規によって、中院家に伝わる記録・文書類が京都大学に寄贈され、「中院文庫」と名付けられました。『中院一品記』を始めとする家記や有職故実の記録、そして和歌に関する文献などが含まれ、日本史や国文学研究において貴重な史料となっています。中院家には、村上源氏久我流六条家から分かれた別系も存在しましたが、南北朝時代には途絶えました。

中院家は、栄華と苦難を繰り返しながらも、日本の歴史、文化に大きな足跡を残した家系と言えるでしょう。その歴史は、中院文庫を始めとする史料から、今もなお語り継がれています。

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