丹下左膳 飛燕居合斬り

『丹下左膳 飛燕居合斬り』は、1966年5月21日に公開された東映京都製作の時代劇映画です。監督はテレビ界出身の五社英雄、主演は中村錦之助（萬屋錦之介）が務めました。この作品は、東映が時代劇から任侠映画へと路線変更を図る中で、中村錦之助のために企画された異色の剣豪映画として誕生しました。

製作の背景

1960年代、東映は時代劇の不振から脱却するため、任侠映画へと大きく舵を切ろうとしていました。しかし、看板スターであった中村錦之助は、この路線変更に反対。そこで、当時の東映京都所長であった岡田茂は、錦之助のために特別に時代劇企画を検討することになりました。時代劇は製作に時間と予算がかかるため、他の監督たちは任侠映画に専念しており、適任者がいませんでした。そこで白羽の矢が立ったのが、テレビ出身の五社英雄監督でした。五社監督は、テレビドラマでスピーディーなアクション演出に定評があり、映画界でも新しい風を吹き込む存在として期待されていました。また、五社監督自身も映画での演出を望んでおり、東映京都という時代劇のメッカでトップスターの錦之助と組むことは、願ってもない機会でした。

当初、錦之助は司馬遼太郎の『俄』の映画化を希望していましたが、結果として本作『丹下左膳 飛燕居合斬り』が製作されることになりました。

撮影と作品の特徴

五社監督と錦之助は、江戸っ子同士で気が合い、撮影は非常にスムーズに進みました。五社監督のスピーディーでダイナミックな演出と、錦之助の迫力ある剣術アクションが見事に融合し、従来の時代劇とは一線を画す、刺激的なエンターテイメント作品として完成しました。しかし、岡田茂は五社監督と錦之助のコンビで「丹下左膳」シリーズ化を考えていましたが、錦之助は文学志向を強めており、娯楽映画でイメージが固定されることを嫌ったため、このコンビでの続編は実現しませんでした。

また、当時錦之助は俳優組合の委員長を務めており、東映からの独立を希望していました。最終的には、東映と4本の映画に出演することを条件に円満退社することとなり、本作は錦之助が東映を退社する前の最後の作品の一つとなりました。

作品の影響

五社監督の演出は、岡田茂に高く評価され、その後の五社監督の活動に大きな影響を与えました。特に、低予算で自由に映画製作ができる機会を得た五社監督は、夏八木勲主演の『牙狼之介』シリーズを手掛けるなど、新たな時代劇の可能性を切り開きました。この作品は、その後の時代劇映画に新たな方向性を示すとともに、五社監督の個性を際立たせる重要な作品となりました。

スタッフ

監督：五社英雄
企画：小川三喜雄、松平乗道
脚色：田坂啓、五社英雄
原作：林不忘
撮影：吉田貞次
音楽：津島利章
美術：塚本隆治

キャスト

丹下左膳：中村錦之助 (萬屋錦之介)
柳生源三郎：木村功
お藤：淡路恵子
萩乃：入江若葉
与吉：藤岡琢也
ちょび安：金子吉延
愚楽老人：河津清三郎
蒲生泰軒：天津敏
将軍吉宗：穂高稔
田丸主水正：中村錦司
大垣：福本清三
尾関出雲：織本順吉
ドロ亀：人見きよし
若旦那：平参平
隠密二：宍戸大全
柳生藩士二：五十嵐義弘
柳生対馬守：丹波哲郎
大岡越前守：大友柳太朗

同時上映

『三等兵親分』
脚本：棚田吾郎
監督：瀬川昌治
* 主演：江原真二郎

『丹下左膳 飛燕居合斬り』は、五社英雄監督の演出力と中村錦之助のスター性が融合した、見ごたえのある時代劇として、今もなお多くのファンに愛され続けています。

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