丹後国分寺

丹後国分寺

丹後国分寺は、京都府宮津市国分に位置する高野山真言宗の寺院です。山号は護国山と称します。この寺院は、奈良時代に聖武天皇の勅命によって日本各地に建立された国分寺の一つ、丹後国国分僧寺の後継にあたります。本稿では、現存する寺院とともに、その前身である丹後国分寺跡（国の史跡）についても詳しく解説します。

概要

丹後国分寺は、京都府北部の天橋立で区切られた阿蘇海の北岸の高台に位置しています。聖武天皇の詔によって創建された国分寺の法灯を受け継ぐ寺院であり、周辺には籠神社（丹後国一宮）や丹後国府の跡地も推定されています。寺地は古代、中世、近世で変遷しており、創建時の古代国分寺の正確な位置は不明ですが、中世に再建された金堂、塔、中門の礎石群が現在も残っています。また、その北側には近世に再建された現在の国分寺があります。

中世国分寺の寺跡は、1930年（昭和5年）に国の史跡に指定されました。また、再興の経緯を記した「丹後国分寺再興縁起」は、1992年（平成4年）に国の重要文化財に指定されています。現在、中世国分寺跡は京都府立丹後郷土資料館の敷地内に位置し、整備された上で一般公開されています。

歴史

古代

創建時期は不明ですが、天平13年（741年）の国分寺建立の詔勅後に創建されたと考えられています。発掘調査では古代国分寺の遺構は確認されていませんが、創建当時のものとされる古瓦が発見されています。天平勝宝8歳（756年）には、丹後国を含む26ヶ国の国分寺に灌頂幡などが下賜されました。また、宝亀年間（770-781年）の太政官符では、寺の造営費用が出挙に当てられています。弘仁11年（820年）の『弘仁式』には、国分寺の費用として稲2万束が割り当てられ、延長5年（927年）成立の『延喜式』にも同様の規定が見られます。

中世・近世

鎌倉時代の様子は、成相寺の『丹後国田数帳』に記録されており、与謝郡に「金光明寺 散在十九町二段卅八歩 御免」、同郡石河庄に「十五町三段十八歩 国分寺」・「十三町六段百九十八歩 国分寺領無現地」といった記述が見られます。『丹後国分寺再興縁起』によれば、鎌倉時代末期には寺は荒廃し、本尊の金銅薬師像も盗難に遭っていたといいます。しかし、嘉暦3年（1328年）から建武元年（1334年）にかけて、律宗西大寺派の宣基上人によって再建されました（中世国分寺）。現在残る金堂の礎石群は、この再建時の設計図と一致することが確認されています。再建後の堂宇は、雪舟の「天橋立図」（16世紀初頭、文亀元年（1501年）頃）にも描かれています。

その後、再び荒廃したと見られ、永正4年（1507年）の若狭武田氏による兵乱（府中城侵攻）の際に戦火に遭ったという説や、『国分寺略縁起』では天文11年（1542年）の府中での兵乱による炎上を伝えています。現在残る礎石群にも火災の痕跡が見られるため、少なくとも火災によって建武期の伽藍は失われたと推定されます。

江戸時代に入り、天和3年（1683年）には洪水で伽藍が失われた後、高台に再建されました（近世国分寺：現在の国分寺）。焼失（戦国時代）から洪水（天和3年）までの伽藍については記録や遺構が乏しく不明ですが、一帯の小字名から、建武期や近世とは異なる配置の伽藍が再々興されたとする説があります。

近代以降

近代以降の主な出来事は以下の通りです。

1930年（昭和5年）10月3日：中世国分寺跡が国の史跡に指定。
昭和40年代前半：移動していた礎石が元の位置に復元。
1970年（昭和45年）：京都府立丹後郷土資料館が開館（以降、中世国分寺跡は資料館の敷地内となる）。
1990年（平成2年）4月17日：「丹後国分寺再興縁起」が京都府指定有形文化財に指定。
1992年（平成4年）6月22日：「丹後国分寺再興縁起」が国の重要文化財に指定。
2021年度（令和3年度）：丹後国分寺跡の試掘確認調査（京都府教育委員会）が実施。

伽藍

丹後国分寺跡

現国分寺以前の伽藍のうち、創建期の古代国分寺については、正確な位置を含めて不明な点が多いです。遺物としては、軒丸瓦と軒平瓦の2点があり、その文様は山城地方の普賢寺跡や山陰地方の国分寺跡出土の瓦と共通する点が注目されます。

再興された中世国分寺の伽藍遺構は、現国分寺の南側の史跡地に残っています。金堂と中門が南北に並び、その西側に塔が配置された伽藍配置となっています。

金堂: 本尊を祀る建物で、門を入った正面に位置します。現在は35個の礎石が残り、「本堂屋敷」という地名が残っています。礎石の配置は、間口（南北面）が五間、奥行（東西面）が六間であり、『丹後国分寺再興縁起』の記述と一致します。
塔: 寺域の西側に位置します。現在は16個の礎石が残り、「塔屋敷」という地名が残っています。『丹後国分寺再興縁起』には記述がありませんが、「天橋立図」には五重塔が描かれています。この塔は戦国時代に火災で失われたとされています。
中門: 寺域の南側に位置します。現在は2個の礎石が残っています。『丹後国分寺再興縁起』には記述がありません。

中世国分寺の伽藍を知る上で貴重な資料として、雪舟の「天橋立図」があります。この図に描かれた金堂、塔、中門の相対的な位置は、現在の礎石群の位置とも一致します。

文化財

重要文化財（国指定）

丹後国分寺再興縁起（附 丹後国分寺再興縁起写1冊）：嘉暦3年（1328年）から建武元年（1334年）にかけての丹後国分寺再興の経緯を記録した書物です。本書は南北朝時代頃の古写本とされています。内容は3段に分かれており、前段では宣基による勧進の様子、中段では金堂上棟などの様子、後段では金堂供養会の様子が記されています。この史料は、中世の地方寺院の造営事情を明らかにする貴重な資料であり、西大寺派による鎌倉時代後期から南北朝時代の西国における国分寺復興活動を具体的に示す唯一の史料となっています。1990年（平成2年）4月17日に京都府指定有形文化財に指定され、1992年（平成4年）6月22日に国の重要文化財に指定されました。

国の史跡

丹後国分寺跡：1930年（昭和5年）10月3日に指定。

京都府登録文化財

国分寺略縁起（古文書）：江戸時代、正徳3年（1713年）に作成された文書。1993年（平成5年）4月9日登録。

宮津市指定文化財

毘沙門天面: 平安時代の作で、行道に用いられた面の一つ。裏面に「金光明寺 修正□□」の墨書があります。
追儺面 3面: 室町時代の作で、修正会で用いられたとされる面。男・女の鬼面が各1面と、伝宣基上人面1面の計3面があります。

その他

その他の文化財としては、紙本墨画不動明王像があります。また、以下の仏像が関連遺物として知られています。

金銅観世音菩薩半跏思惟像: 正木美術館（大阪府泉北郡忠岡町）所蔵。奈良時代を下らない時期の作で、像高約38センチメートル。丹後国分寺の本尊である薬師如来像の胎内仏であったとする説があります。

現地情報

所在地

京都府宮津市国分

交通アクセス

バス：岩滝口駅（WILLER TRAINS（京都丹後鉄道）宮豊線）から、丹後海陸交通バスで「丹後資料館前」バス停下車後、徒歩約5分。

関連施設

京都府立丹後郷土資料館（ふるさとミュージアム丹後）（宮津市国分）：丹後国分寺関連資料を保管・展示。

周辺

籠神社：丹後国一宮。

脚注

参考文献

丹後国分寺跡説明板（京都府教育委員会、2009年設置）
「丹後国分寺跡」『京都府埋蔵文化財情報 第8号 (PDF)』京都府埋蔵文化財調査研究センター、1983年、38-39頁。
「丹後国国分寺建武再興縁起」『京都の文化財 第8集』京都府教育委員会、1990年、20-21頁。
「丹後国分寺跡」『日本歴史地名大系 26 京都府の地名』平凡社、1981年。ISBN 4582490263。
「丹後国分寺跡」『国指定史跡ガイド』講談社。
中世諸国一宮制研究会編『中世諸国一宮制の基礎的研究』岩田書院、2000年。ISBN 978-4872941708。
吹田直子「中世再興後の丹後国分寺の寺地移動について -寺蔵資料の記事を中心に- (PDF)」『京都府埋蔵文化財論集 第6集』京都府埋蔵文化財調査研究センター、2010年。

関連文献

「丹後國分僧寺」『京都府史蹟勝地調査會報告 第六冊』京都府、1925年。

外部リンク

* 丹後国分寺跡 - 国指定文化財等データベース（文化庁）

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