薄田研二

薄田研二：新劇から時代劇へ、波乱に満ちた俳優人生

薄田研二（1898年～1972年）は、日本の俳優、演出家として知られる人物です。福岡県に生まれ、造り酒屋を営む家庭で育ちましたが、12歳で両親を亡くし、家業を継ぐことになります。青年期には、結核療養中の作家・倉田百三と交流を持ち、新しき村福岡支部の会員にも参加していました。画家を目指して上京したのち、演劇の世界へ足を踏み入れることになります。

1925年、薄田は築地小劇場の研究生となり、翌年にはシェークスピアの『ベニスの商人』でシャイロック役を演じ、高い評価を得ました。築地小劇場分裂後には、土方与志らと共に新築地劇団を結成、中核を担って活躍します。新築地劇団は、プロレタリア演劇運動にも関与していましたが、1940年には当局による弾圧を受け、解散を余儀なくされました。劇団員は逮捕され、薄田自身も一時拘留されました。

戦時中は、映画にも出演するようになり、数々の作品で存在感を示しました。新築地劇団解散後には、大映の専属俳優となりますが、芸名の使用を禁じられたため、本名の高山徳右衛門として出演しました。その後、苦楽座を経て、東京芸術劇場、新協劇団、そして自ら設立した中央芸術劇場（後の劇団中芸）と、数々の劇団を拠点に活動します。1959年には東京芸術座設立にも関与しています。

戦後の映画界では、再び薄田研二の名前で活躍。木下惠介、伊藤大輔、山本薩夫といった巨匠監督の作品にも出演しました。しかし、薄田研二の名前を世に知らしめたのは、東映時代劇での悪役としての活躍です。1952年の『赤穂城』で吉良上野介を演じたのを皮切りに、数々の時代劇で悪役を熱演し、高い人気を博しました。忠臣蔵ものでは堀部弥兵衛を4度も演じ、『旗本退屈男』シリーズなどにも欠かせない存在として、年間20本もの作品に出演した時期もありました。

1963年には脳溢血で倒れましたが、奇跡的に回復。1969年にはススキダ演技研究所を開設し、後進の育成にも力を注ぎました。1972年、急性肺炎のため73歳で死去。俳優、演出家、そして教育者として、日本の演劇史に大きな足跡を残した薄田研二の生涯は、激動の時代を生き抜いた、まさにドラマチックなものでした。彼の功績は、現在も演劇界に影響を与え続けています。

彼の活躍は、築地小劇場という近代演劇の重要な拠点から始まり、プロレタリア演劇運動への関与、戦時下の活動、そして戦後の東映時代劇での悪役俳優としての成功と多岐に渡ります。そのキャリアは、日本の演劇と映画の歴史を語る上で欠かせないものです。また、自伝『暗転　わが演劇自伝』は、彼の生涯と当時の演劇界の実情を知る上で貴重な資料となっています。彼の活動は、演劇界のみならず、日本の文化史において重要な位置を占めていると言えるでしょう。

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