久渡寺

久渡寺（くどじ）は、青森県弘前市坂元に位置する真言宗智山派の寺院です。護国山と号し、観音院とも呼ばれます。津軽三十三観音霊場の第一番札所であり、最勝院、百沢寺（現・求聞寺）、橋雲寺、国上寺と共に津軽真言五山の一つとして、古くから地域の人々に信仰されてきました。本尊は慈覚大師円仁の作と伝えられる聖観音で、かつては最勝院の末寺でした。

歴史

久渡寺の起源は、大鰐村にあった阿闍羅三千坊の一つ、興福寺にあるとされています。興福寺は円智法印によって小沢村（現在の弘前市小沢）に移され、小沢山観音院救度寺と改称されました。その後、津軽藩主の津軽為信によって、山号が護国山に改められたと伝えられています。

寺の開山については諸説あり、開山を円智、中興を寛海とする説もあれば、開山・開基ともに不詳とする説もあります。正徳元年（1711年）の寺社領分限帳には、小沢村で開基されたと記されています。元和5年（1619年）には、二代目藩主の津軽信枚が救度寺別当の円知坊に対し、小沢村と湯口村に寺領20石を与える黒印寺領宛行状を発行しました。寛永11年（1634年）には、三代目藩主の津軽信義が久渡寺に対して、改めて小沢村と湯口村の寺領100石を与える黒印寺領宛行状を発行し、寛永21年（1644年）には、観音院に対して50石を加増する黒印知行加増状を発行しています。明治30年（1897年）頃からは、王志羅講（大白羅講）が盛んに行われるようになりました。

境内

境内には、熊野社と白山堂が鎮座しています。これらの社は、久渡寺の歴史と地域の信仰を今に伝える重要な存在です。

幽霊画

久渡寺には、円山応挙の作と伝わる幽霊画「返魂香之図」が所蔵されています。この絵は、公開すると雨が降るとの伝承があり、雨乞いに霊験があるとされています。2021年の調査では、この幽霊画が円山応挙の真筆である可能性が高いことが判明し、絵のモデルが弘前藩家老の森岡主膳元徳が亡くした妾「國」である可能性も指摘されています。この発見は、久渡寺の歴史と文化的な価値をさらに高めるものとなりました。

オシラ講

久渡寺では、毎年5月15日と16日に「オシラ講（大白羅講、王志羅講とも）」と呼ばれる、特有の参拝行事が行われています。この行事は、東北地方に広く信仰されているオシラ様を祀るもので、蚕の神、農業の神、馬の神として崇められています。参拝者は、各家庭や村で祭られている桑の木で作られた男女一対のオシラ様像を持ち寄り、本堂で御朱印を押してもらいます。この行為は「位を上げる」と呼ばれ、毎年参拝するとオシラ様の位が上がるとの伝承があります。オシラ様はきらびやかな衣装で飾られ、護摩祈祷が行われた後、大幣でオシラ様と参拝者がお祓いされます。昭和30年代頃までは、護摩祈祷後にイタコが津軽三十三観音の御詠歌とオシラ祭文を読誦する儀式が行われていました。この独特な習俗は、「久渡寺のオシラ講の習俗」として1999年に記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財に選択されました。

アクセス

• - 車: 弘前市街から青森県道126号久渡寺新寺町線を経由。
• - 路線バス: 弘前バスターミナル・弘前駅から久渡寺線に乗車し、終点「久渡寺」バス停で下車。

久渡寺は、長い歴史の中で多くの人々の信仰を集めてきた寺院であり、その美しい佇まいと独特な文化は、訪れる人々を魅了し続けています。

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