五円紙幣

五円紙幣の歴史

五円紙幣は、日本銀行が発行した紙幣の一つで、その歴史は明治時代に遡ります。様々な変遷を経て、現在では法律上有効なA号券のみが残っています。ここでは、その多岐にわたる歴史と各紙幣の特徴を詳しく解説します。

初期の五円紙幣

旧五円券

1885年（明治18年）に登場した最初の五円紙幣です。表面には彩紋や兌換文言、裏面には大黒天が描かれており、「大黒札」として親しまれました。大黒天のモデルは、当時の印刷局職員であった書家の平林由松です。紙幣の製造には三椏を原料とした用紙が使われ、強度を高めるためにコンニャク粉が混ぜられていました。透かしには「日本銀行券」の文字と宝珠、小槌の図柄が用いられました。

改造五円券

1888年（明治21年）に発行された、旧五円券の改良版です。表面には菅原道真公の肖像が描かれ、通称「分銅5円」と呼ばれていました。この肖像は、文献資料や絵画を参考に、お雇い外国人技師のエドアルド・キヨッソーネがデザインしたものです。旧券の欠点を改善するため、用紙やインクも改良されました。透かしには「銀貨五圓」と「5YEN」の文字が使用されました。

兌換券から不換紙幣へ

甲号券

1899年（明治32年）に発行された、金本位制移行後の兌換券です。表面には武内宿禰と宇倍神社の全景が描かれており、通称「中央武内5円」と呼ばれていました。当初は変体仮名が記号に用いられていましたが、後にアラビア数字に変更されました。透かしは「五圓」の文字と枝桐の図柄です。

乙号券

1910年（明治43年）に発行された紙幣で、表面には菅原道真、裏面には北野天満宮拝殿が描かれています。偽造防止のため、菅原道真の肖像が緑色で印刷され、透かしには笑顔の大黒天の図柄が用いられました。しかし、そのデザインから「幽霊札」と呼ばれ不評でした。透かしの位置が空白で印刷されていたことも、当時の紙幣としては珍しく、印刷漏れを疑われる原因となりました。

丙号券

乙号券が不評だったため、1916年（大正5年）に発行された紙幣です。表面には武内宿禰と宇倍神社拝殿が描かれ、デザインは伝統的なものに回帰しました。通称は「大正武内5円」「白ひげ5円」です。透かしは「日本銀行」の文字と網目模様です。

丁号券

1930年（昭和5年）に関東大震災後の兌換券整理のために発行された紙幣で、表面には菅原道真と北野天満宮拝殿が描かれています。鮮やかな色調が特徴で、透かしには「五圓」の文字と梅花紋が使用されました。この紙幣から、五円紙幣には菅原道真が描かれることが多くなります。通称は「1次5円」です。

い号券

1942年（昭和17年）に、製造効率向上のために発行された紙幣です。デザインは丁号券とほぼ同じで、表面には菅原道真と北野天満宮拝殿が描かれていますが、より簡素なものとなっています。透かしは古代鳥模様です。通称は「2次5円」です。

ろ号券

1943年（昭和18年）に発行された不換紙幣で、表面はい号券と類似していますが、裏面が簡易な凸版印刷に変更されました。記番号の色が製造時期により異なり、初期は黒色、後期は赤色で印刷されました。透かしは、い号券と同様の古代鳥模様です。通称は「3次5円」、「4次5円」です。

新円切替とA号券

A号券

1946年（昭和21年）に、終戦直後のインフレ抑制策として新円切替の際に発行された紙幣です。肖像や風景が一切なく、彩紋模様のみのデザインが特徴です。民間印刷会社にデザインが公募されたという異例の経緯を持っています。透かしはありません。現在、法律上有効な唯一の五円紙幣ですが、そのデザインや流通量の少なさから、一般的に使われることはありません。通し番号はなく、記号のみの表記です。

未発行紙幣

B五円券

肖像に福沢諭吉をデザインした、本格的な銀行券として検討されましたが、五円硬貨の発行により発行は取りやめとなりました。後に福沢諭吉は一万円紙幣の肖像画の人物として起用されています。

まとめ

五円紙幣は、その歴史の中で様々なデザインや技術が用いられてきました。それぞれの紙幣が発行された背景には、当時の社会情勢や経済状況が反映されており、その変遷は日本の近代史を物語っています。現在ではA号券のみが有効ですが、その歴史を振り返ることで、紙幣の奥深さを感じることができます。

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