変体仮名

変体仮名：歴史と現代における使用

変体仮名とは、現在標準として用いられている平仮名48文字以外の、歴史的に用いられてきた仮名文字のことです。平安時代から明治時代にかけて、様々な字体が混在して用いられており、それぞれの時代や文脈によって、異なる字体が選択されていました。

平安時代から明治時代までの変体仮名

平安時代、平仮名は誕生当初から、1つの音に対して複数の字体が存在していました。これは、美術的な表現や、初期の平仮名の判別しにくさを改良する過程で生まれた結果だと考えられています。そのため、当時の書物や手紙、日記などでは、現代の視点からは「変体仮名」とされる文字が頻繁に用いられていました。有名な例としては、『源氏物語』や『枕草子』なども、現代でいう変体仮名を多く含んでいます。

鎌倉時代以降も、変体仮名は継続して使用され、個々の書家の書風や癖のような違いはあれど、基本的には平安時代の字体が手本とされていました。明治時代初期の小学校の教科書にも、複数の字体が掲載されていたほどです。

明治時代以降の変体仮名の衰退とUnicodeへの収録

明治33年（1900年）、小学校令施行規則の改正により、一つの音には一つの字体しか教えないこととなり、変体仮名は学校教育から姿を消しました。その後、1908年には一時的に一部の変体仮名が復活したものの、1922年には完全に廃止されました。

しかし、戦前においても、日記や書簡などの私的な筆記では、変体仮名が使用されることがありました。夏目漱石の自筆原稿にも、多くの変体仮名が見られます。

戦後、戸籍法の施行により、変体仮名の人名への使用が禁止されたことや、活字印刷の普及によって、変体仮名の使用はさらに減少しました。現在では、主に書道作品、古風な看板、地名など限定的な場面で見られます。

近年、変体仮名のUnicodeへの収録が実現しました。2017年には285字がUnicode 10.0.0に登録され、コンピュータ上での表示や利用が可能になりました。これにより、変体仮名のデジタル化が進み、より多くの人が歴史的な仮名文字に触れる機会が増えました。

変体仮名の使い分け

変体仮名は単に字体が異なるだけでなく、文脈や位置によって使い分けられていました。具体的には、以下の様な使い分けがありました。

特定の語を特定の字体で表す: 例えば、「今日」を「けふ」ではなく、「𛀳ふ」と書くなど。
語頭、語中・語尾、助詞等の使い分け: 語頭では「か（加）」、語中・語尾では「𛀙（可）」を使うなど、位置によって異なる字体を用いることがありました。
同音が続く場合の字体を使い分け（隣接回避）
音価による使い分け: 例えば、「ち（知）」の濁音（ぢ）には「𛁣（地）」を使うなど。

変体仮名に対応したフォント

Unicodeに収録された変体仮名を表示できるフォントは、近年増加していますが、全ての変体仮名に対応しているフォントは未だ限られています。IPAmj明朝、花園明朝A、Unicode変体仮名フォントなど、変体仮名に対応したフォントを利用することで、コンピュータ上でも変体仮名を表示することが可能になりました。

まとめ

変体仮名は、日本の書写の歴史を反映した貴重な文字です。その歴史的背景や多様な字体、そして現代におけるUnicodeへの収録を理解することで、日本の言語文化に対する理解を深めることができます。今後も、変体仮名の研究やデジタル化の取り組みが進むことで、より多くの人がその魅力に触れる機会が増えることが期待されます。

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