人民戦線事件

人民戦線事件の概要

人民戦線事件は、1937年12月15日と1938年2月1日に発生した重要な政治検挙事件です。この事件は、コミンテルンの反ファシズム統一戦線の呼びかけに応じた日本国内の運動家や政治家、学者らが一斉に検挙されたもので、主に労農派に属する人々が対象となりました。この動きは、日本共産党にとどまらず、非共産党のマルキストや社会主義者全般に対する取り締まりへと拡大していきました。治安維持法に基づく拡大解釈の一例としても知られています。

背景

事件の背景には、1935年7月にモスクワで開催されたコミンテルン第7回大会があります。この大会では、反ファシズム統一戦線の形成が宣言され、社会民主主義勢力と連携する方針が打ち出されました。その後、1936年には、岡野や田中といった著名な共産主義者たちから「日本の共産主義者へのてがみ」が送られ、この方針転換が日本においても影響を及ぼすこととなります。

このような流れの中で、労農派が運動の中心となり、彼らは1段階革命論に立脚していました。一方で、コミンテルンの路線に従う講座派と呼ばれるグループも存在していましたが、警察側はまず講座派の学者たちを「コム・アカデミー事件」として検挙しました。これによって、日本共産党の再建運動に関する検挙が活発化し、社会主義思想を持つ人々への圧力が強まったのです。

このような状況は特別高等警察や思想検察の内部事情にも起因しており、彼らは新たな対象を見つける必要性に駆られていました。2・26事件以降、反ファッショの運動が高まりを見せたことで、その波に乗って人民戦線事件が勃発したのです。

事件の経過

事件は1937年12月15日、全国の18府県で同時に発生しました。警察は466人を検挙し、その中には労農派や日本労働組合全国評議会などの中央・地方の幹部や学者が多数含まれていました。この動きは「第一次人民戦線事件」と呼ばれ、その後の12月22日には、日本無産党と全評が結社禁止処分を受けて解散しました。

さらに、1938年2月1日には9府県で追加の検挙が行われ、教授グループが対象となりました。これらの検挙は労農派と呼ばれるグループとの関連のほか、当時の東京帝大内の学問的な対立もうかがわせるものでした。

検挙された484名の内訳は、日本無産党関係が265名、全評関係が174名、労農派グループ34名、教授グループ11名というものでした。著名な検挙者としては、代議士の加藤勘十や運動家の山川均らが名を連ねています。

目的遂行罪の拡大解釈と運用

この検挙に対しては、予審判事からの疑問も上がり、日本無産党が治安維持法にあたるかどうかが議論されます。目的遂行罪の適用には無理があり、その後、司法省はこれに関する手引書を作成して拡大解釈を進めることになります。具体的には、「労農派と日本無産党」というパンフレットが作成され、その中で目的遂行罪の適用が強調されました。

しかし、拡大解釈による運用は証拠集めや起訴の維持の困難さから批判を受けています。それでも、高圧的な取り締まりが続く中で、多くの無罪判決が相次ぎました。

最終的な影響と判決

多くの被告は起訴後に無罪判決を受けた一方で、中には有罪が下される者もいました。最終的に、敗戦により治安維持法自体が廃止され、逮捕された者たちは1945年に免訴となりました。また、事件の余波としては、思想検事たちが治安維持法の改正を目指して動き出すこととなります。

このように、人民戦線事件は、当時の日本社会における思想的対立と抑圧の構造を浮き彫りにする重要な出来事であり、法制上の問題点や政治的背景を考察する上で欠かせないものとなっています。

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