今野武雄

今野 武雄

今野 武雄（こんの たけお）は、1907年（明治40年）3月17日に生まれ、1990年（平成2年）3月29日に83歳で生涯を閉じた日本の多才な人物です。数学者、科学史家、教育者、そして政治家として、激動の昭和期を駆け抜けました。特にイギリスの動物学者、ランスロット・ホグベンの著書『百万人の数学』の翻訳は、彼を広く知らしめる業績の一つとなりました。

東京に生まれた今野は、東京帝国大学理学部で数学を専攻し、卒業後は東京物理学校（現在の東京理科大学）や慶應義塾大学、法政大学などで教鞭を執りました。教育者としての道を歩む傍ら、1933年（昭和8年）には日本共産党に入党し、社会変革運動にも深く関わります。このため、戦前には1940年1月の「唯研事件」における第二次一斉検挙を含む、三度にわたる逮捕と投獄を経験しました。しかし、過酷な状況下でも学問への情熱を失わず、獄中やその合間にも数学や科学史に関する多くの著作や翻訳を発表しています。

第二次世界大戦終結後は、読売新聞の論説委員として論壇に立ちました。1946年には、民主主義科学者協会の設立に重要な役割を果たし、常任幹事や事務局長を務めるなど、戦後日本の科学運動を牽引しました。その後も鎌倉アカデミアや専修大学で教壇に立ち、教育者としての経験を重ねました。1949年の衆議院議員総選挙では、神奈川2区から日本共産党公認候補として出馬し、トップ当選を果たして一期衆議院議員を務めました。しかし、再選を目指した1952年の総選挙では落選し、政界からは身を引くことになります。

政界引退後も、1952年に設立された労働者教育協会の理事を務めるなど、生涯にわたり数学教育の普及と発展に力を注ぎました。また、晩年には日本の測量史における偉人、伊能忠敬に関する研究に精力的に取り組み、その成果を発表しています。

1990年3月29日、多臓器不全のため東京都昭島市の昭島相互病院で死去しました。数学、科学史、教育、政治と幅広い分野で活動し、多くの著書や翻訳を残した今野武雄は、日本の近現代史における重要な人物の一人と言えるでしょう。

主な著作・翻訳

単著

『補習微分学』（陵友社、1934年）
『数学論』（三笠書房、1935年）
『科学思想史』（プレブス社、1948年）
『数の博物館』（新潮社、1950年）
『現代人の数学』（日本評論新社、1956年）
『伊能忠敬』（新日本出版社、1977年10月）のち現代教養文庫

訳書・共著

ガリレオ・ガリレイ著『新科学対話』（岩波文庫、1937年、度々再版）日田節次と共訳
ランスロット・ホグベン著『百万人の数学:数学上の発明の社会史的背景に立脚せる数学入門書』（日本評論社、1939年 - 1940年）山崎三郎と共訳
ランスロット・ホグベン著『市民の科学』（日本評論社、1942年）
デヴィド・オイゲン・スミス著『数学史』（紀元社、1944年）
カール・マルクス著『数学に関する遺稿』（岩波書店、1949年）玉木英彦と共訳
ヤ・ベ・ゼリドーウィチ著『科学者・技術者のための数学入門』（岩波書店、1961年）鎮目俊夫と共訳

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