伊世同

伊世同：中国天文史研究を牽引した学者

伊世同（い せどう、1931年 - 2008年）は、現代中国における傑出した天文史学者です。長年にわたり北京天文館および北京古観象台を拠点に、歴史的な星図や観測機器、天文施設の記録に関する広範な調査研究に生涯を捧げました。彼の業績の中でも特に重要なのは、中国と西洋の天文学を結びつけた画期的な著作『中西对照恒星图表 1950.0』の編纂です。

異色の経歴と天文研究への道

伊世同は1931年4月25日、吉林省吉林市に生を受けました。当初は美術を学び、中学校で教鞭をとっていましたが、天文学には独学で深く傾倒していきました。その知識と情熱が認められ、1956年には国務院と中国科学院合同委員会の招聘により北京天文館に迎え入れられます。以来、定年を迎える1991年まで、彼は北京天文館とその管理下にあった北京古観象台で研究活動を続けました。

晩年には、河南省登封にある観星台の保存と活用にも尽力し、博物館施設「中国天文博物院」の設立を主導し、初代院長を務めました。しかし、2008年7月、登封市で世界文化遺産登録に向けた調査を行っていた際に心不全で倒れ、77歳で惜しまれながらこの世を去りました。

幅広い研究成果と記念碑的著作

北京天文館・古観象台での伊世同の研究活動は多岐にわたりました。古代から近代に至る中国や西洋の星図、歴史的価値を持つ天文観測機器、そして天文学そのものや観測施設に関する歴史などがその対象です。これらの研究成果は、10冊の著書と300本を超える論文として発表されています。具体的には、現存する最古級とされる呉越王銭元瓘夫妻墓の石刻星図の詳細な調査報告、雍和宮に伝わる天文機器の目録作成、紫金山天文台所蔵の観測具から明代の尺の長さを精密に特定するなど、枚挙にいとまがありません。

しかし、彼の最も輝かしい業績として歴史に刻まれているのは、共同研究者とともに20年の歳月をかけて完成させた『中西对照恒星图表 1950.0』です。これは1981年に科学出版社から、星図と星表の二分冊として刊行されました。中国の伝統的な星名と西洋の星名を対応させる研究は、先行研究者たちによっても進められていましたが、伊世同らのこの著作は、

肉眼で見える全ての恒星を網羅していること
現代の基準である1950年元期に基づく高精度の赤道座標を採用していること
国際天文学連合の星座と中国古来の星官を一目で比較できる革新的な星図を備えていること
星官、星名、番号の完全な一覧を提供していること

といった点において、それまでの研究を凌駕し、比類なき完成度と実用性を実現しました。この著作は、中国天文学研究に新たな道を切り拓いた金字塔として高く評価されています。出版に先立ち、『中国大百科全書』にも掲載され、多くの研究者にとって不可欠な参照文献となりました。かの著名な科学史家ジョゼフ・ニーダムも、科学雑誌『ネイチャー』誌上でこの功績を称賛しています。

国際交流への貢献

伊世同は、西側諸国との天文学分野における交流促進にも積極的に取り組みました。特に、北京古観象台の観測機器とゆかりの深いイエズス会士フェルディナント・フェルビーストの母国ベルギーとの関係を重視しました。フェルビーストが清の康熙帝のために製作した巨大天球儀の精巧な複製を、彼の母校であるルーヴェン大学に設置するため奔走し、1989年にその実現を見ました。

伊世同の情熱と緻密な研究は、中国の豊かな天文史を現代に蘇らせ、国内外の研究者間の橋渡しをする上で計り知れない貢献を果たしました。彼の業績は、今後も長く読み継がれ、天文史研究の基礎であり続けるでしょう。

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