伊勢貞丈

伊勢貞丈：江戸中期の有職故実研究家

伊勢貞丈（いせ さだたけ）は、江戸時代中期に活躍した旗本であり、有職故実の研究家として知られています。江戸幕府に仕え、小姓組蕃士という役職も務めました。伊勢氏はもともと室町幕府の政所執事を務めた家柄で、礼法に精通していました。貞丈は、その伝統を受け継ぎ、武家故実の研究に生涯を捧げました。

生涯

貞丈は、旗本・伊勢貞益の次男として生まれました。幼名は万助、通称は兵庫、平蔵といい、安斎と号しました。名は音読みでテイジョウと呼ばれることもあります。

貞丈の家系は、曾祖父の伊勢貞衡が江戸幕府に召し抱えられたことから、幕臣としての道を歩み始めました。しかし、貞丈の父である貞益が若くして亡くなり、兄の貞陳も早世したため、伊勢家は一時断絶の危機に瀕します。しかし、代々受け継がれてきた家流の伝統を絶やすことを惜しんだ幕府は、貞丈に300石を与え、寄合に加えました。この時、貞丈は10歳でしたが、12歳と詐称していました。

その後、貞丈は父が将軍台覧に供した家伝の書を再び台覧に供する機会を得ます。そのうち4巻を献上したことで、褒賞として時服を賜りました。延享2年（1745年）には、小姓組に番入りし、儀式の周旋や将軍出行の随行などを務めました。

貞丈は、特に中世以来の武家を中心とした制度・礼式・調度・器具・服飾などに詳しく、武家故実の第一人者とされました。彼は、伊勢流中興の祖として、その名を後世に刻みました。

天明4年（1784年）に老年により小普請となり、隠居生活を送りました。その際、黄金2枚を賜りました。享年67歳で亡くなりましたが、幕府への届け出と『寛政重修諸家譜』では没年や享年が異なっています。家督は婿養子の貞敦が辞退したため、貞敦の子である伊勢貞春が継ぎました。

著述活動

貞丈は、有職故実に関する多くの著書を残しました。代表的なものとして、『平義器談』、『四季草』、『貞丈雑記』、『貞丈家訓』、『安斎随筆』、『安斎雑考』、『安斎小説』、『刀剣問答』、『軍用記』、『犬追物類鏡』、『座右書』、『武器考証』、『鎧着用次第』、『包結図説』、『条々聞書貞丈抄』、『神道独語』などが挙げられます。

これらの著書は、武家の有職故実に関する事項を詳細に記しており、後世の研究者にとって貴重な資料となっています。

特に『貞丈雑記』は、子孫への古書案内と故実研究の参考書として、22年間にわたり36部門に分けて武家の有職に関する事項をまとめたものです。

森鷗外は、貸本屋で多くの随筆類を読んだ後、伊勢貞丈の故実の書に及ぶようになれば、貸本文学も卒業となる、と記しています。これは、貞丈の著述が当時の読書人にとって、高度な知識と教養を必要とするものであったことを示しています。

人物・発言など

貞丈は、その博識さだけでなく、興味深い人物像も持ち合わせていました。

例えば、普通のキツネが「妖狐」になる方法を記録しています。その方法は、野原で人間の頭蓋骨を見つけ、それをキツネが頭に乗せ、北斗七星を拝むというもので、これを100回成功させる必要があるとされています。この奇抜な記述は、貞丈の好奇心とユーモアを表していると言えるでしょう。

また、元禄赤穂事件について、浅野長矩の刃傷事件の原因を、長矩が癇癪持ちで怒りっぽい性格だったことにあると分析しています。これは、当時の社会情勢や人物の性格を深く洞察していたことを示しています。

まとめ

伊勢貞丈は、江戸時代中期の旗本であり、有職故実研究家として多大な功績を残しました。武家故実の第一人者として伊勢流を中興し、多くの著書を通じて後世に大きな影響を与えました。彼の生涯と業績は、日本の歴史や文化を理解する上で欠かせない要素と言えるでしょう。

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