伊豆討ち入り

伊豆討ち入りとは

伊豆討ち入りは、室町時代後期に伊勢盛時（後の北条早雲）が、伊豆の堀越御所にいた足利茶々丸を攻撃した事件です。この事件は、従来の通説では戦国時代の幕開けを告げる下克上の典型例とされてきましたが、21世紀に入ってからの研究では、中央の政治情勢と深く連動した動きであったことが明らかになっています。

事件の背景

堀越公方・足利政知の思惑

享徳の乱終結後、足利政知は支配領域を伊豆一国に限定されました。政知は、次男の清晃（後の足利義澄）を将軍に擁立しようと画策し、清晃を天龍寺に入寺させます。当時、将軍・足利義尚が病弱であったこともあり、清晃は有力な将軍候補でした。また、政知は長男の茶々丸を廃嫡し、三男の潤童子を後継者に定めました。

将軍後継問題

しかし、将軍・義尚の死後、新将軍となったのは清晃ではなく、政知の弟である義視の嫡子・義材（後の義稙）でした。この結果、政知は清晃を将軍にするという計画は頓挫しました。

伊勢盛時の台頭

駿河守護・今川氏親の補佐をしていた伊勢盛時は、幕府奉公衆として義材に仕えます。しかし、盛時は、もともと清晃を支持する政知の家臣でもあったため、義材に近づいたのは、清晃擁立を画策するためだったとする見方もあります。また、盛時は政知から伊豆の所領を与えられていました。

政知の死と伊豆の混乱

政知の死後、茶々丸が実力で家督を奪い、潤童子と円満院を殺害します。茶々丸の行動は家臣の支持を得られず、伊豆国内は混乱しました。この時、盛時は政知から与えられていた領地を茶々丸に没収されました。また、茶々丸は今川氏と対立し、盛時は今川氏の支援を受けて京都から駿河に下向しました。

伊豆討ち入りの勃発

明応の政変

明応2年（1493年）に、細川政元が明応の政変を起こし、将軍・義材を廃して清晃を擁立しました。この時、盛時もこのクーデターに協力したとされています。清晃は還俗して義遐（後の義高・義澄）と名乗り、新将軍となります。この結果、茶々丸は将軍の生母と実弟の殺害犯となりました。

盛時の伊豆侵攻

義澄は盛時に対し、茶々丸討伐を命じました。盛時としても、茶々丸に没収された伊豆の所領を回復することは、自身の権益を取り戻すことを意味しました。盛時は、今川氏親や扇谷上杉定正、さらに潤童子を支持していた伊豆国人らを味方につけて伊豆に侵攻し、茶々丸の本拠である堀越御所を攻撃しました。

茶々丸の抵抗と伊豆平定

茶々丸は山内上杉顕定らの支援を得て抵抗しましたが、堀越御所を捨て南伊豆に逃れました。盛時は堀越御所を制圧し、韮山城を本拠としました。しかし、茶々丸はその後も抵抗を続け、伊勢氏が伊豆を完全に平定するまでには、討ち入りから5年の歳月を要しました。

伊勢盛時の出家

伊豆討ち入り後、盛時は京都へ帰還することが困難になり、出家して「早雲庵宗瑞」と名乗りました。この出来事は、盛時の戦国大名としての出発点となりました。宗瑞は韮山城を拠点に、伊豆を支配し、後の北条氏の基礎を築きました。

まとめ

伊豆討ち入りは、足利将軍家の後継問題や、地方の有力者である伊勢盛時の野心が複雑に絡み合った事件でした。この事件は、下克上の始まりとされることもありますが、中央の政治動向と深く関わっており、戦国時代の幕開けを告げる重要な出来事であったと言えるでしょう。

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