足利茶々丸

足利茶々丸（あしかがちゃちゃまる）は、室町時代後期の武将で、初代堀越公方である足利政知の長男です。異母弟には、室町幕府11代将軍の足利義澄（清晃）、潤童子などがいます。幼名である「茶々丸」は広く知られていますが、成人後の実名（諱）は伝わっていません。また、元服したという記録も見当たらず、元服前に亡くなったと考えられています。

生涯

生誕と廃嫡

文明年間（1469年～1481年）に、足利政知の嫡男として生まれた茶々丸でしたが、素行不良を理由に父・政知によって廃嫡され、土牢に幽閉されてしまいます。代わりに、弟の潤童子が後継者とされました。一説によると、潤童子の実母である円満院が、自身の息子を後継者にするために、政知に讒言したことが原因とされています。また、茶々丸の廃嫡を諫めた執事の上杉政憲も、政知に聞き入れられず自害したという話も残っています。

長享元年（1487年）には、茶々丸の弟である清晃（後の足利義澄）が、政知が還俗前に院主を務めていた天龍寺香厳院の後継者となるために上洛し、出家しました。これは、政知が細川政元と連携し、義澄を将軍後継者候補にするための動きだったと言われています。

家督相続と内紛

延徳3年（1491年）に政知が亡くなると、円満院が家政を掌握し、潤童子による家督相続が図られます。しかし、これに反発した茶々丸は、実力で家督を奪う計画を立てます。7月1日、茶々丸は牢番を殺害して脱獄し、潤童子と円満院を殺害して、事実上の堀越公方となりました。この後、茶々丸は元服したとも言われていますが、その実名（諱）は不明です。

しかし、茶々丸の強引なやり方は、全ての家臣の支持を得られませんでした。重臣を成敗したことで旧臣の支持を失い、伊豆国内で争乱が激化します。さらに、堀越公方の勢力が及んでいた駿河の今川氏とも対立するようになりました。

北条早雲の侵攻と最期

明応2年（1493年）、伊豆国内の混乱に乗じて、興国寺城にいた伊勢宗瑞（後の北条早雲）が、伊豆の在地豪族を従えて堀越御所に攻め入りました。従来、これは宗瑞の野心による下剋上とされていましたが、近年では、明応の政変で11代将軍となった義澄が、母と弟の仇討ちのため、宗瑞に茶々丸討伐を命じたとする説が有力です。

当初、茶々丸は宗瑞に抵抗できず、堀越御所で討たれたり、韮山の願成就院で自害したとも言われていました。しかし、近年の史料研究により、関戸氏や狩野氏、土肥氏などの支援を受け、明応4年（1495年）まで伊豆国内で抵抗を続けていたことが確認されています。その後、甲斐国に移り、山内上杉氏や武田氏を頼って伊豆奪回を狙っていたことも明らかになっています。

この頃、甲斐国では武田宗家で内紛が起こっており、茶々丸は武田信縄方と結び、伊勢氏に対抗しました。明応4年に伊豆大島に退去した後、明応5年には武蔵から甲斐吉田に移り、駿河御厨地方へ進出したとされています。しかし、明応7年（1498年）8月25日に起きた明応の大地震後、武田宗家の内紛が一時的に和睦に至り、茶々丸は武田方から伊勢方に引き渡され、切腹したと伝えられています。

他方、茶々丸の最期の地を伊豆国最南端の深根城とする説もあります。この説では、地震と津波によって深根城が壊滅的な被害を受け、抵抗できない状態の茶々丸を、宗瑞が少数の手勢で討ち取ったとされています。また、茶々丸を擁護していた城主の関戸吉信らも皆殺しにされたとされています。

茶々丸の死後

茶々丸の死によって、堀越公方家は滅亡しました。彼の生涯は、室町時代の動乱期における下剋上の象徴として、後世に語り継がれています。

脚注

参考文献

黒田基樹「伊勢宗瑞論」『第一〇巻伊勢宗瑞』戎光祥出版〈シリーズ・中世関東武士の研究〉、2013年。ISBN 9784864030717。
家永遵嗣「伊勢宗瑞（北条早雲）の出自について」「北条早雲の伊豆征服」（黒田基樹編『シリーズ・中世関東武士の研究第一〇巻伊勢宗瑞』（戒光祥出版、2013年）ISBN 978-4-86403-071-7）
黒田基樹『今川氏親と伊勢宗瑞戦国大名誕生の条件』平凡社〈中世から近世へ〉、2019年1月。ISBN 978-4-582-47743-6。

関連項目

伝堀越御所跡

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