住谷寅之介

住谷寅之介：幕末水戸藩の尊王攘夷志士

住谷寅之介は、幕末の水戸藩において尊王攘夷運動に身を投じた人物です。水戸藩士・住谷長太夫の長男として生まれた彼は、早くからその才能を発揮し、藩政において重要な役割を担いました。

生涯

天保9年（1838年）に床机廻に抜擢され、天保13年（1842年）には藩校である弘道館の舎長に任じられます。しかし、天保15年（1844年）に弘道館教授頭であった会沢正志斎が門閥派によって罷免されると、これに抗議して舎長を辞任し、謹慎を命じられました。弘化3年（1846年）には藩主徳川斉昭の雪冤運動に加わったため、処罰を受けています。安政4年（1857年）には格式馬廻組列・軍用掛見習となりました。

安政5年（1858年）10月、住谷は大胡聿蔵らと共に、強権を振るう大老井伊直弼に対する諸藩の決起を促すため、土佐藩・宇和島藩・薩摩藩へ遊説に向かいます。土佐では坂本龍馬と会談し、協力を要請しましたが、宇和島藩では協力を拒否されました。時勢が不利に動いていることを悟った住谷らは、薩摩行きを断念し、失意のうちに江戸へ戻りました。

安政6年（1859年）11月、安政の大獄により職を免ぜられ蟄居処分を受けます。翌安政7年(1860年)2月、高橋多一郎らを中心とする大老井伊直弼の暗殺計画が藩に察知されると、その一味として投獄され禄を奪われました。3月3日に同志が井伊暗殺を実行し（桜田門外の変）、この変の後、幕府は水戸藩に対する弾圧を弱め、10月に住谷は罰を解かれています。

文久元年（1861年）5月、住谷は原市之進、宇都宮藩士大橋訥庵らと老中安藤信正暗殺を計画。同年10月、丙辰丸の盟約に基づき長州藩士周布政之助・桂小五郎に手紙を送り、安藤暗殺の援助を要請しました。長州藩側では藩内の事情から決行の延期を求めたが、機を逸する事を恐れた水戸藩士らによって翌年正月に計画は実行されたものの安藤暗殺は失敗に終わります（坂下門外の変）。住谷は禁固に処されるものの、後に赦免され藩政に復帰しました。文久2年（1862年）閏8月には清河八郎に依頼され、松平春嶽への上書を間崎哲馬に届けています。

文久3年（1863年）には藩主に随従して上京し、水戸藩京都警衛指揮役に任じられ本圀寺に入ります。同年1月27日には京都東山の翠紅館において行われた、水戸藩・長州藩・土佐藩などの尊攘派志士による将軍上洛に関する会合に参加しています。

藤田東湖ら亡き後の水戸藩の尊王攘夷思想の中心的人物と見られていた住谷は、公卿らとも交際し、土佐藩主山内容堂に招かれ時勢を談じたりしています。しかし、公武合体を容認していたことから、勤王派志士から敵視されるようになり、慶応3年（1867年）6月13日宵、鴨川東岸松原河原において土佐藩足軽武士山本旗郎らによって斬殺されました。享年50。墓所は水戸常磐共有墓地、京都霊山墓地にあります。大正4年（1915年）贈正五位。

死後

明治3年（1870年）には、東京神田において住谷の息子らが山本を殺害し、日本で最後に認められた仇討ちを遂げました。

住谷寅之介は、激動の幕末を駆け抜けた水戸藩の志士として、その名が歴史に刻まれています。

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