原市之進

原市之進

原市之進（はら いちのしん）は、幕末期に活躍した水戸藩士であり、一橋徳川家の家臣として徳川慶喜を支えた人物です。彼は藤田東湖の従弟にあたり、その才能を早くから見出され、慶喜の側近として幕政に深く関わりました。

生涯

天保元年（1830年）に水戸藩士・原雅言の次男として生まれた市之進は、幼い頃から学問に励み、弘道館で学びました。嘉永6年（1853年）には昌平坂学問所に入学し、さらに学識を深めます。

若くしてその才能を徳川斉昭に見出された市之進は、水戸に帰国後、安政2年（1855年）に弘道館の訓導（教師）となります。翌年には箐莪塾を開き、経済などの講義を行い、その門弟は500人にも及んだと言われています。藤田小四郎、竹内百太郎、田中愿蔵といった、後に活躍する人物も彼の門下生でした。また、同時に歩行士、小十人組、定江戸奥右筆頭取と昇進し、馬廻役を務めるなど、藩内での地位も高めていきました。

文久3年（1863年）、徳川慶喜が将軍後見職に復権すると、市之進はその才能を買われ、側近として迎えられます。元治元年（1864年）には、慶喜の側用人であった平岡円四郎が暗殺されるという事件が起こります。同年、慶喜が禁裏御守衛総督に就任すると、市之進は正式に一橋家の家臣となり、以降、慶喜を補佐し、重要な機密事項にも携わるようになりました。

慶応2年（1866年）、慶喜から幕臣として取り立てられ、後に目付に就任します。同年7月、将軍・徳川家茂が急死すると、後継問題が発生します。慶喜は、徳川家が現状を維持できないと考え、幕府を廃止して王政復古を行うべきかを市之進に相談します。市之進は、慶喜の本心を他に漏らさぬよう口止めし、将軍就任を承諾させるために、徳川宗家と将軍職を分離し、まずは宗家の相続を進めるよう進言します。慶喜もこの意見に同意し、市之進は慶喜の将軍就任に向けて朝廷や諸大名への工作活動を開始します。そして同年12月5日、孝明天皇より慶喜への将軍宣下がなされました。

しかし、将軍就任からわずか3ヶ月後、慶喜が絶大な信頼を寄せていた孝明天皇が崩御します。幕府は、諸外国から要求されていた兵庫開港という難題に直面し、慶応3年（1867年）3月、朝廷に開港の勅許を奏請しますが、2度に渡って却下されます。薩摩藩の大久保利通は、慶喜を失脚させるために朝廷や四賢侯を利用して妨害工作を行いました。市之進はこれに対抗し、諸大名や公卿らに働きかけ、慶喜の意見への賛同を取り付けます。その結果、5月23日の朝議において、開港の勅許が下されたのです。

慶喜のために忠実に働いた市之進でしたが、その功績を妬む者も少なくありませんでした。また、兵庫開港問題は尊王攘夷の思想からの変節とみなされ、平岡円四郎と同様に、市之進も奸臣として見なされるようになりました。

慶応3年8月14日（1867年9月11日）、市之進は同僚の鈴木豊次郎、依田雄太郎らの刺客によって暗殺されました。享年38歳。結髪中に背後から襲われ、首を斬られたという悲惨な最期でした。

明治35年（1902年）、その功績が認められ、従四位が追贈されました。

原市之進を演じた俳優

田中明夫（NHK大河ドラマ『勝海舟』1974年）
河野洋平（映画『ええじゃないか』1981年）
森塚敏（ドラマ『雄気堂々』1982年）
山口祐一郎（NHK大河ドラマ『徳川慶喜』1998年）
* 尾上寛之（NHK大河ドラマ『青天を衝け』2021年）

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