佐野屋喜兵衛

佐野屋喜兵衛（さのや きへえ）は、生没年不詳ながら、江戸時代後期から明治時代にかけて江戸で活躍した地本問屋です。

経歴

佐野屋喜兵衛は、喜鶴堂（きかくどう）や佐野喜（さのき）という号も用いました。奥村氏を名乗り、享保年間から慶応・明治年間にかけて、日本橋平松町、芝神明前三島町角五郎兵衛店、長兵衛店などで営業を展開しました。江戸地本草紙問屋元組29名のひとりとして、業界内でも重要な役割を担っていました。

出版物としては、錦絵や草双紙といった当時の娯楽の中心をなすものに加え、千代紙や絵半切など、多岐にわたるジャンルを手がけました。その活動は江戸後期にわたり、幅広く文化の発展に貢献しました。

刊行年が不明の『長雄江戸往来』には、「太保堂」という名で記載されています。これは佐野屋喜兵衛の別の屋号であった可能性を示唆しています。

手がけた絵師には、西村重長、鈴木春信といった初期の浮世絵師から、菊川英山、歌川広重、歌川国芳、渓斎英泉、2代目歌川広重、2代目歌川国貞など、江戸後期を代表する人気絵師たちが名を連ねます。これらの絵師たちの作品を世に送り出すことで、浮世絵文化の隆盛を支えました。

主な作品

佐野屋喜兵衛が手がけた主な作品には以下のようなものがあります。

『金沢江戸道中案内』：享保2年（1717年）に刊行された道中案内。
西村重長『絵本江戸土産』：宝暦3年（1753年）刊行の絵本。
鈴木春信『絵本続江戸土産』：明和5年（1768年）刊行の絵本。
菊川英山『青楼名君花合』：文化5年（1808年）刊行の大判錦絵揃物。
渓斎英泉『浮世美人十二ヶ月』：大判錦絵揃物。
渓斎英泉『今様美人競』：文政中期刊行の大判錦絵揃物。
歌川広重『江戸名所』：広重による江戸の名所を描いた作品。
歌川広重『花鳥』：短冊判の花鳥画。
歌川広重『富士川上流の雪景』：富士川の雪景色を描いた作品。
歌川広重『不二三十六景』：富士山を題材にした連作。
歌川広重『東都名所』：天保から嘉永にかけて刊行された横大判の錦絵揃物。
歌川広重『江戸近郊八景之内』：天保8年（1837年）頃刊行の横大判錦絵揃物。
歌川広重『東海道五十三次之内（狂歌入東海道）』：天保11年（1840年）頃刊行の中判56枚揃の錦絵。別名『東海道つつき絵』、『五十三次風景写真』とも呼ばれます。
歌川広重『富士川上流の雪景』：天保13年（1842年）頃刊行の大判上下2枚継の錦絵。
歌川国芳『駒形の朝霧』：国芳による朝霧の風景を描いた作品。
2代目歌川広重『新吉原仲の町』：2代目広重による新吉原の風景を描いた作品。
2代目歌川国貞『西国奇談』：安政3年（1856年）から明治8年（1875年）にかけて刊行された合巻。二世為永春水作。

これらの作品は、当時の人々の生活や文化、流行を今に伝える貴重な資料となっています。

参考文献

佐野屋喜兵衛に関する研究は、以下の文献に詳しい記述があります。

日本浮世絵協会編『原色浮世絵大百科事典』第3巻 大修館書店、1982年 ※138頁
吉田漱『浮世絵の基礎知識』雄山閣、1987年 ※150頁
小林忠 大久保純一『浮世絵の鑑賞基礎知識』至文堂、1994年 ※209頁

これらの文献は、佐野屋喜兵衛の研究だけでなく、浮世絵全体に関する知識を深める上でも非常に有益です。

佐野屋喜兵衛は、江戸の文化を支えた重要な版元の一つとして、その名前は歴史に刻まれています。

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