信濃島津氏

信濃島津氏：信州に根付いた薩摩の名族

信濃島津氏（しなのしまづし）は、薩摩国島津氏の支族の一つで、信州家（しんしゅうけ）とも呼ばれます。鎌倉時代初期に島津氏の祖である島津忠久が信濃国に地頭として入部したことに端を発し、南北朝時代、戦国時代を通じて信濃の歴史に深く関わりました。

鎌倉時代：太田荘の地頭として

信濃島津氏の記録は、『島津家文書』に収録された「信濃国太田庄相伝系図」に詳しいです。この系図によれば、承久の乱の恩賞として、島津忠久が承久3年（1221年）に水内郡太田荘の地頭職に補任されました。太田荘は田畑三百四十町余を有する広大な荘園で、その領家は島津氏と縁の深い摂家近衛家でした。

系図には、太田荘の経営に関わった一族の名前が記されており、島津氏一族が鎌倉時代末期まで、この地で活動していたことがわかります。また、嘉暦4年（1329年）の「北条高時下知状」には、信濃国の御家人が輪番で諏訪大社の祭祀を務めていたことが記されており、島津氏の祖である豊後前司忠久や、大隈前司忠時、その子孫たちが祭祀の役を担っていたことがわかります。

この頃、太田荘は島津宗家と伊作家に分割相続されました。それまで善光寺の地頭であった長沼宗政が解任され、窪寺氏、原氏、諏訪部氏、和田氏の四氏が奉行となった記録も残っています。

南北朝時代：所領を巡る争いと合戦

南北朝時代に入ると、信濃島津氏は所領を巡る争いに巻き込まれます。興国3年/康永元年（1342年）には、大倉郷の地頭職を巡って称名寺と長期間にわたる紛争が起こりました。また、他の信濃国人からの侵害や守護からの干渉も受けたため、薩摩から太田荘に移住する者も現れ、長沼郷に本拠を置いた島津刑部少輔もその一人です。

貞治4年/正平20年（1365年）には、島津太郎国忠が守護の小笠原長基と合戦に至りました。さらに元中4年/嘉慶元年（1387年）には、室町幕府から任命された守護の斯波義種に抵抗し、長沼（島津）太郎は村上頼国らと共に善光寺に挙兵。平芝の守護所を攻め、漆田原で合戦となりました。至徳4年（1387年）には、斯波氏の守護代である二宮氏泰が島津氏の所領を差し押さえたため、国人領主たちは横山城を攻め落とし、市河氏らを追撃して埴科郡の生仁城に転戦しています。応永6年（1399年）には、信濃守護となった小笠原長秀に抵抗した島津国忠が、小笠原方の赤沢氏らと抗争しました。この一連の戦いは、大塔合戦の前哨戦とも言われています。

室町・戦国時代：上杉氏への臣従

室町時代中期になると、隣国越後の守護代を務める長尾氏に通じた高梨氏が勢力を拡大し、島津氏の所領を圧迫し始めました。長尾為景と上杉定実の対立が激化すると、島津貞忠は井上氏や須田氏らと共に上杉方に味方し、長尾氏を後ろ盾とする高梨氏と対立しました。忠久以降、島津氏一族は太田荘の各郷の地頭職を補任され、相伝していきました。この中で長沼家と赤沼家という二つの支流が知られています。

長沼家と赤沼家は戦国時代を生き抜くため協力し、赤沼家が長沼家を頼る関係になりました。両家とも上杉謙信に臣従し、後に米沢藩に仕官しています。

長沼家と赤沼家

長沼家：島津氏高祖・忠久の三男・豊後六郎左衛門尉忠直の曾孫である左京進光忠（島津光忠）が、信濃国長沼郷、黒河郷、下浅野福王寺郷の地頭職となり、信濃島津氏長沼家の祖となりました。貞忠の孫である島津忠直は、上杉謙信・景勝の家臣として活躍し、同家は米沢藩の家老家である侍組分領家の一つとなりました。

赤沼家：越前島津氏の元祖・忠綱の三男・忠景の孫である五郎右衛門尉忠秀（常陸介、大夫判官）が、赤沼郷の地頭職となり、信濃島津氏赤沼家の祖となりました。

その他

時宗の遊行上人第26代・他阿空達は、信濃島津氏の出身であると『遊行・藤沢両上人御歴代系譜』に記されています。また、天文19年（1550年）には「伊作後胤信州」を名乗る者が薩摩国伊作城を訪れ、伊作家の系図を見て先祖の墓参をしたという記録もあります。

まとめ

信濃島津氏は、鎌倉時代から戦国時代にかけて信濃国に根を張り、激動の時代を生き抜いた一族です。その歴史は、中世の信濃の歴史を語る上で欠かせない要素となっています。

参考文献

野田雄二「信濃の島津氏」 『長野郷土史研究会機関紙 長野』125号、1986年
野田幸敬「島津氏支族について」 『家系研究』33号、1998年
杉本雅人『増訂 越前島津氏－その事歴と系譜』、2010年
『長野県史 通史編 第2巻 中世1』
『長野県史 通史編 第3巻 中世2』

関連項目

太田荘 (信濃国)
* 長沼城 (信濃国)

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