倭姫命世記

『倭姫命世記』の概要

『倭姫命世記』（やまとひめのみことせいき）は、鎌倉時代中期に成立した重要な文献であり、伊勢[[神道]]の基本的な経典の一つです。この書物では、倭姫命が天照大神を奉じて各地を巡り、最終的に伊勢に鎮座した伝説が語られています。伝承は、神護景雲2年（768年）に禰宜の五月麻呂による編纂として伝わっていますが、実際には鎌倉時代の中期に編纂されたと考えられています。これにより、当時の神道の教えが色濃く反映されています。

成立の背景

この書が成立した背景には、平安時代末期以降に伊勢神宮の荘園である御厨が広がり、室町時代以降には下級神職の御師が全国に伊勢信仰を広めたことが関係しています。倭姫命世記の編纂者については、久保田収が度会行忠によるものと推測していますが、鎌田純一はそれ以前に成立していた可能性があると指摘しています。『倭姫命世記』は、神道五部書の中でも特に早い時期に成立した作品であり、『宝基本紀』に次ぐものであると考えられています。このように、古代の書物『大同本紀』を基に製作されており、神宮の古伝承を取り入れることでその成立が確証されていきます。

文体と構成

この書の文体は、宣命体が多く用いられていますが、文章構造には古代語と中世鎌倉語が混在しています。編者は古代に成立した文献を装うために擬古的な手法を用いていると考えられています。また、倭姫命の伝説は日本各地に広まっており、特に岐阜県、滋賀県、三重県にその痕跡があります。

主要な教説

『倭姫命世記』では、倭姫命が皇大神宮に鎮座するまでの過程が詳述され、その過程で示される神道の思想も重要です。特に、倭姫命が託宣を行い、人間の心が神の分霊であることを示した部分では、「正直」や「清浄」といった生き方が求められると述べられています。さらに、「元を元として元の初めに入り、本を本として本の心に任（よ）させよ」という教えから、「元々本々」の思想が提唱され、生命の再生の重要性が強調されています。この考え方は、式年遷宮などの祭りにおいても強く反映されています。

研究の歴史

『倭姫命世記』に関する学術的研究は、江戸時代中期の国学者吉見幸和から始まり、彼はこの書の成立が遅れたとの見解を示しました。しかし、その後の研究者たち、特に本居宣長や御巫清直などは、古伝承が含まれていることを指摘し、その成立過程を明示しました。戦後には岡田米男や西田長男らによるさらなる詳細な研究が進められ、倭姫命世記の位置づけがより明確にされていきました。これにより、この文献が持つ文化的、歴史的な意義が再確認されています。

参考文献

• - 『中世神道論』大隅和雄校注、岩波書店〈日本思想大系 19〉、1977年。
• - 『プレステップ神道学』阪本是丸・石井研士監修、弘文堂、2011年。
• - 伊藤聡『神道とは何か』中央公論新社〈中公新書 2158〉、2012年。
• - 海部やをとめ・三橋健『倭姫の命さまの物語』冨山房インターナショナル、2018年。

外部リンク: 倭姫命世記

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