沙陀族

沙陀族：華北を駆け抜けたテュルク系遊牧民族

沙陀族は、8世紀から10世紀頃にかけて、華北、オルドスから山西省北部にかけての地域で繁栄したテュルク系遊牧民族です。突厥の崩壊後、吐蕃に属し、後に唐に帰順しました。現在の山西省北部に定着して軍閥化し、次第に漢化していきました。

勃興と唐への帰順

元々、西突厥の構成員であった沙陀族は、処月と呼ばれたテュルク系遊牧集団の一部でした。8世紀半ばにウイグルによって突厥が滅ぼされると、華北地方に南下し、オルドスを中心とする地域に拠点を築き、沙陀突厥と称されました。初めは吐蕃に属していましたが、安史の乱を機に唐に帰順し、潼関を守る哥舒翰の軍に加わりました。

唐末の動乱と沙陀族の台頭

868年の龐勛の乱において、沙陀族の朱邪赤心が鎮圧に貢献し、唐の皇帝から「李国昌」の名を与えられ、有力な軍閥へと成長しました。さらに、875年の黄巣の乱では、李国昌の子である李克用が鴉軍を率いて黄巣を破り、長安を奪還する功績を挙げました。しかし、黄巣の乱は朱全忠の裏切りによって鎮圧され、唐もまた朱全忠によって滅亡しました。李克用は、自らを「唐の正統な後継者」と位置づけ、朱全忠の建てた後梁と対立を深めました。

五代の覇者

李克用とその後を継いだ李存勗は、契丹との連携・対立を繰り返しながら後梁を倒し、後唐王朝を建国しました。沙陀族系の王朝の特徴として、実子と養子の格差が少ない点が挙げられます。そのため、皇帝の死後、後継を巡って実子と養子の間で争いが起こることがありました。これは、もともと小規模な勢力であり、遊牧に適した土地を離れた沙陀族が、軍事力を維持・拡大するために、有能な人材を養子として迎え入れ、養父-養子関係で軍閥機構を構築したことによるものと考えられています。

李存勗の後を継いだのは養子の李嗣源であり、その李嗣源から皇位を簒奪したのは、またも養子の李従珂でした。李嗣源の女婿である石敬瑭は、李従珂を滅ぼすために契丹に頼り、後晋を建国しました。しかし、後晋は契丹の傀儡であり、国内には軍閥が割拠する状況が続きました。石敬瑭の死後、後漢が建てられましたが、これもすぐに崩壊しました。

五代十国時代の華北における抗争は、沙陀系王朝と契丹（遼）との間の連携・離反の繰り返しだったと言えるでしょう。

沙陀族系の王朝

後唐（李克用、李存勗、李嗣源）
後晋（石敬瑭、石重貴）
後漢（劉知遠）
北[[漢]]（劉崇）


沙陀族は、その興亡を通じて、華北の歴史に大きな足跡を残しました。彼らの軍事力と独特の文化は、後の宋朝にも影響を与え、中国史において重要な役割を果たしました。

参考資料

『東洋歴史大辞典 中巻』（1941年、縮刷復刻版、臨川書店、ISBN 465301471X）「沙陀」（執筆:松田壽男）
『中国の歴史08 疾駆する草原の征服者 遼 西夏 金 元』（杉山正明、講談社、2005年、ISBN 4062740583）

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