入之波温泉

入之波温泉：秘境に湧き出る黄金の湯

入之波温泉（しおのはおんせん）は、奈良県吉野郡川上村、吉野川の源流に近い山深い場所に位置する温泉地です。大迫ダム湖のほとりに佇む一軒宿「山鳩湯」を中心に、数軒の民宿がひっそりと営業しています。

泉質と効能

泉質は、ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉で、源泉温度は39.0℃です。加温掛け流しで、毎分500Lという豊富な湧出量を誇ります。湯色は、湧出時は無色透明ですが、時間が経つにつれて黄金色に変化するのが特徴です。飲泉も可能で、その効能を体の中から取り入れることもできます。

特筆すべきは、日本有数のトラバーチン（石灰華）が発達している温泉地であること。温泉成分が析出し、独特の景観を作り出しています。

温泉街の様子

温泉街というよりは、一軒宿「山鳩湯」が中心となっている、ひっそりとした佇まいです。山鳩湯は、成分の濃い濁り湯で有名で、その歴史は、かつての源泉がダム湖に沈んだ後、旅館を経営する中村家が林業から転身し、地下150メートルから源泉を掘り当てたことに始まります。1977年に旅館を開業以来、多くの湯治客や観光客を癒やしてきました。

湯船には、黄褐色の石灰質の析出物が陶器のように付着し、独特の風合いを醸し出しています。露天風呂は、女将の発案でケヤキ材を組み合わせて造られました。当初は湯が漏れていたものの、温泉成分が徐々に隙間を塞ぎ、今では木製とは分からないほど石灰華が堆積しています。

山鳩湯源泉から湧き出る温泉水の約半分は旅館で使用され、残りの半分は谷に流れ込み、大迫ダム貯水池へと合流します。その過程で、温泉析出物であるトラバーチンが堆積し、独特の景観を作り出しています。

また、山鳩湯源泉とは別に五色湯源泉も存在しますが、炭素や酸素の安定同位体比などが多少異なります。大台ヶ原へ向かう登山道の途中には、江戸時代の湯治場であった五色湯跡があり、当時の面影を偲ぶことができます。

歴史

入之波温泉には、役小角が開湯したという伝説が残っています。山鳩湯については、江戸時代には地表から湧き出ていたという記録がありますが、現在使用されている源泉は、深さ約150mのボーリング孔から湧出するものです。昭和48年に大迫ダムが完成した際、温泉はダム湖に沈みましたが、その後ボーリングによって源泉を掘り当て、山鳩湯旅館が営業を再開し、温泉は復活を遂げました。

アクセス

公共交通機関を利用する場合、近鉄大和上市駅から川上村営やまぶきバス入之波行きに乗り、終点で下車後、東へ400m進みます（所要時間約70分、平日3往復・土曜2往復のみ運行）。

または、近鉄大和上市駅から奈良交通バス湯盛温泉杉の湯行きに乗り、終点で下車後、池原経由下桑原行きに乗り継ぎ、大迫ダムで下車後、東へ4km進みます（1日1往復のみ）。湯盛温泉杉の湯からタクシーを利用する場合は、所要時間約15分です。

車を利用する場合は、西名阪自動車道郡山ICから約1時間50分、南阪奈道路葛城ICから約1時間40分です。

関連情報

入之波温泉湯元 山鳩湯
川上村HP

備考

* 五色湯は閉館しています。

入之波温泉は、交通の便が良いとは言えませんが、その分、手つかずの自然と静寂に包まれた、まさに秘境と呼ぶにふさわしい温泉地です。日常の喧騒を忘れ、心身を癒やしたい方は、ぜひ一度訪れてみてください。

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