入鹿池

入鹿池（いるかいけ）

入鹿池は、愛知県犬山市の飛騨木曽川国定公園内にある、農業用として作られた人工のため池です。その貯水容量は1847万9000立方メートルを誇り、全国でも有数の規模を誇ります。2010年には農林水産省の「ため池百選」に選定され、2015年には国際かんがい排水委員会の「世界かんがい施設遺産」にも登録されました。

概要

入鹿池は、香川県の満濃池と並び、全国でも1、2を争う規模の農業用ため池です。犬山市をはじめ、小牧市や丹羽郡の町々へ灌漑用水を供給しています。

池の周囲は、北に今井山、南西には本宮山・尾張富士・白山の尾張三山が連なり、豊かな自然に囲まれています。池畔には博物館明治村があり、観光地としても人気です。ボートやワカサギ釣りなどのアクティビティも楽しめます。池の周囲には、尾張パークウェイや県道16号、県道49号などが整備されています。

基礎データ

形式：土堰堤
堤高：26.9m
堤長：120.0m
周囲：約16km
貯水量：15,187,786m3（満水時、転倒ゲート起立時の貯水量は16,810,863m3）
満水面積：152.1ha
灌漑面積：1,369町
水源：五条川、成沢川、郷川

歴史

前史

かつて木曽川は、鵜沼川、広野川、境川、尾張川などと呼ばれていました。天正年間に流路が大きく変わり、木曽川と呼ばれるようになったと考えられています。

木曽川は度々氾濫を起こし、人々を苦しめていました。徳川家康の命を受けた伊奈忠次が、慶長14年（1609年）に約50kmに及ぶ御囲堤を築き、治水を行いました。この工事により、木曽川の支流は全て廃川となりましたが、木曽川の治水は完全ではありませんでした。薩摩藩士による宝暦治水、そしてオランダ人技師ヨハニス・デ・レーケを中心に行われた明治の木曽三川分流を経て、木曽川の治水は完成しました。

伊奈忠次による御囲堤の築造は、木曽川の水利を制限する側面もありました。そのため、木曽川から新たに取水する用水路を整備する必要が生じ、大江用水、般若用水、木津用水などの用水網が整備されました。大江用水は以前から存在していましたが、御囲堤のために新たに杁（取水口）を設ける必要がありました。取水場所である大野村（現一宮市）には杁の作成技術を持つ者がいなかったため、治水技術が進んでいた山城国から、大工の平田与左衛門・平四郎兄弟が派遣されました。この兄弟は、後に入鹿池の築造にも貢献することになります。

入鹿池築造

当時、新田開発が盛んに行われており、用水路を補うため、ため池の築造も盛んに行われていました。入鹿池が潤すことになる楽田原、青山原、小牧台地は高台に位置し、水源が乏しかったため、新田開発の主水源として入鹿池が計画されました。寛永3年（1626年）に旱害による水争いが起きたことも、開発を後押ししました。

入鹿池の築造には、江崎善左衛門、落合新八郎、鈴木久兵衛、鈴木作右衛門、丹羽又助、舟橋七兵衛の6人が中心となって尽力し、彼らは後に入鹿六人衆と呼ばれるようになりました。彼らは、丹羽郡入鹿村にある銚子の口と呼ばれる場所を堰き止める計画を立てました。入鹿村は、成沢川、荒田川、奥入鹿川などの諸流が流れ込む谷間にあり、その出口が銚子の口でした。

入鹿六人衆の計画は、村を一つ潰してため池を造るという、当時としては前代未聞の大規模なものでした。そのため、彼らは犬山藩に請願し、尾張藩に開発願を提出しました。当時の犬山藩主であった成瀬正虎は、尾張藩の付家老でもあったため、彼の進言により入鹿池の築造は尾張藩の事業となりました。

尾張藩は、入鹿村の住民に対し、家長一間につき金一両を支払い、立ち退かせました。立ち退き先として、未開発の荒地や池の畔が与えられ、彼らが移転した先は、新たに入鹿出新田と名付けられました。

工事の概要

寛永9年（1632年）に始まった工事は、水量の多さや地形の難しさから難航しました。そこで、大野杁の工事と同様に、河内国から技術者を招き、甚九郎という人物が派遣されました。

百間堤

甚九郎は、棚築きと呼ばれる技術を用いて、巧みに土を積み上げ、寛永10年（1633年）2月、96間（約175m）にも及ぶ大堤を完成させました。この堤は百間堤と呼ばれ、甚九郎の功績を称え、河内屋堤とも呼ばれています。築堤に使用された土の量は、490,000立方メートルにも及びました。甚九郎は褒美として土地を与えられ、その荒地は河内屋新田と名付けられ、見事に開墾されました。

杁

杁（取水口）の設置には、大野杁の実績がある一宮の大工、原田兄弟が当たりました。入鹿池の杁は、大野杁よりも更に巨大なものが必要とされましたが、尾張藩の協力もあり、40間（約73m）の杁堤が完成しました。杁は、水量を調節するために重要な役割を果たしました。

杁には杁守役が配置され、その配下には水練の者が置かれました。最初に杁守役となった丹羽七郎右衛門と落合善左衛門は、悪政を敷いたため免官され、次に山田清九郎と森川常八が任官され、代々杁守役を世襲しました。彼らは、池に近い神尾村に移住し、水役所に池の水位を伝えることを主な仕事としました。水役所で用水路に水を流す日が決まると、水練の者が杁の戸を開けました。水練の者は神尾村の達者であり、鉄梃子で戸を開け閉めしました。

新田開発

入鹿池と用水が完成した後、新田開発が行われました。尾張藩は、入鹿池の造成に功績のあった入鹿六人衆を新田頭に任命し、新田開発にあたらせました。当時、井筋は広大な原野であり、開発には多くの人手が必要でした。そこで、尾張藩は、江崎善左衛門、落合新八郎、鈴木作右衛門の3人を新田頭とし、その下で働く者には3年間の年貢・諸役の免除という政策を打ち出しました。さらに、罪人を開発に当たらせれば、罪を許すというお触れも出しました。

入鹿六人衆は、尾張東北部の新田開発に多大な功績を残しました。尾張藩は彼らを賞して、苗字帯刀を許可し、10石の土地を与え、新田頭の任を世襲としました。

また、新田頭たちは、新たに木曽川からの取水用水を作成する計画を立て、木津用水（大手堀、新木津用水）を完成させました。これらの新田開発は、尾張藩の総石高を増やしましたが、工事の連続は藩の財政に打撃を与えました。

入鹿出新田

入鹿池の築造により、入鹿村の住民は移転を余儀なくされましたが、移転先として、前原新田、奥入鹿村、菊川新田、神尾入鹿新田、北外山入鹿出新田などが与えられ、これらは入鹿出新田と呼ばれました。入鹿村の歴史は古く、縄文時代後期の物とみられる入鹿池遺跡があります。また、かつてこの地には、入鹿屯倉が設置されていました。虫鹿神社、天道宮白雲寺は、入鹿池の造成の際に前原新田へ移築されました。

入鹿六人衆

入鹿六人衆は、江戸時代初期に尾張東北部の新田開発に貢献した中心人物です。それぞれが新田頭に任命され、その役は世襲となりました。

江崎善左衛門了也
落合新八郎宗親
鈴木作右衛門
鈴木久兵衛
丹羽又助
船橋七兵衛

入鹿切れ

入鹿池は、完成から235年間、大きな災害を起こすことはありませんでしたが、明治元年（1868年）の大雨により、百間堤が決壊し、下流に甚大な被害をもたらしました。この災害は「入鹿切れ」と呼ばれ、死者は774人に及んだとされています。入鹿切れを契機に、入鹿池の干拓計画が持ち上がりましたが、防災面での貢献が大きいことから、取りやめとなりました。1977年（昭和52年）に防災ダム事業計画が始まり、1991年（平成3年）に工事が完了しました。

年表

縄文時代後期（紀元前1000年頃）：入鹿池遺跡
535年：入鹿屯倉設置
寛永5年（1628年）：入鹿池築造計画申し出
寛永9年（1632年）：本格的に築造着工
寛永10年（1633年）：築造完了
明治元年（1868年）：入鹿切れ発生
昭和52年（1977年）：防災ダム事業計画はじまる
平成3年（1991年）：防災ダム工事完成
平成28年（2016年）：天皇・皇后（当時）が視察に訪れる

周辺

入鹿池周辺は、夜間に暴走族が集まる場所としても知られていますが、対策として減速帯が設置されています。

施設

博物館明治村
犬山市立池野小学校
犬山池野簡易郵便局
神明白山神社
諏訪神社
犬山カンツリー倶楽部

山

尾張三山（尾張富士、本宮山、白山）
八曽山

道路

尾北自然歩道
中央自動車道小牧東IC
愛知県道16号多治見犬山線
愛知県道453号明治村小牧線
愛知県道49号春日井犬山線
岐阜県道121号・愛知県道191号長洞犬山線
尾張パークウェイ

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