全国高等学校ア式蹴球大会

全国高等学校ア式蹴球大会（旧制高校サッカー）

全国高等学校ア式蹴球大会は、1923年から1948年まで開催された旧制高等学校によるサッカーの全国大会です。太平洋戦争による中断期間を挟みながらも、25年間にわたり日本のサッカー界に大きな影響を与えました。現在ではその存在を知る人は少ないかもしれませんが、戦前の日本サッカーの発展に重要な役割を果たした大会でした。

大会の概要

大会の発端は、東京帝国大学（現東京大学）の学生だった野津謙が、自身が所属する東京大学ア式蹴球部の強化のために旧制高校の全国大会開催を発案したことでした。当時の日本のサッカーは中等学校や師範学校が中心でしたが、旧制高校でもサッカーが盛んになりつつある状況に着目し、優秀な人材を東京帝大に集めることを目指しました。

大会の予想通り、旧制高校の卒業生の多くが進学した東京帝大に優秀な選手が集まり、東京帝大サッカー部は黄金時代を築きました。また、長年にわたりこの大会から大学サッカー界へ多くの優秀な人材が輩出され、大学サッカーの隆盛に大きく貢献しました。さらに、戦前の極東選手権大会や1936年ベルリンオリンピックの代表選手も、この大会の出場選手が中心となり、戦後も大会関係者が日本サッカー協会の中心的な幹部や指導者として活躍しました。

歴史

当初は官立の高等学校のみでの開催が予定されていましたが、早稲田大学の鈴木重義の働きかけにより、私立の早稲田高等学院も参加することになり、私立高校や大学予科も参加する旧制高校の全国大会となりました。大会開催にあたっては、万朝報社の後援を得ました。会場は東京帝国大学や東京高等師範学校、京都の岡崎公園グラウンドなどが使用され、毎年年始に予選なしのトーナメント戦で優勝チームを決定していました。

主催は第4回大会までは東京帝大でしたが、第5回大会からは東京帝大と京都帝大の東西両帝大が共同で開催するようになり、第6回大会からは東京と京都で隔年開催となりました。

太平洋戦争開戦間もない1942年の大会は、東日本と西日本で別々に開催され、日本一を決定しませんでした。この大会は参加チームや試合結果に不明な点が多く、参考記録となっています。戦時色が濃くなったこの年には、主催が両帝大蹴球部から文部省と大日本体育振興会に変更され、全国高等学校体育大会の蹴球競技として夏にも開催されました。日本一を決めたこちらの大会が正式な記録として扱われています。

1943年には学徒体育訓練大会の蹴球競技として開催が予定されていましたが、学徒勤労動員の影響で無期延期となりました。戦後は日本のサッカー界で最初の行事として復活し、1946年の夏には全国4箇所で予選が行われ、秋に決勝が行われました。旧制高校の最終年となった1948年の大会は、全国高等学校体育連盟および日本蹴球協会が主催し、東大と京大は後援となりました。この大会をもって、全国高等学校ア式蹴球大会はその歴史に幕を閉じました。

大会を彩った人々

鈴木重義が私立高校の参加を強く求めた背景には、母校である早稲田高等学院に実弟の鈴木義弘が在学していたこともあったようです。私立高校や大学予科が参加したことで、大会は真の全国大会としての性格を持つことになりました。

第1回、第2回大会を連覇した早稲田高等学院のコーチは、当時無名だったチョー・ディンでした。彼の指導により早高が優勝したことが分かると、山口高校や神戸一中もチョー・ディンにコーチを依頼するようになりました。1923年の関東大震災で東京高等工業学校（現在の東京工業大学）の校舎が倒壊し、授業再開の見通しが立たない中、チョー・ディンは全国の学校を巡ってサッカーを指導し、日本にショートパス戦法の型を確立しました。

大会開催に尽力した野津謙、鈴木重義、新田純興らは競技審判なども務めました。また、彼らと選手との年齢が近かったこともあり、出場選手の中にも競技顧問を務める者もいました。選手OBの多くも、役員として大会運営に携わったようです。

第6回大会から京都と東京で隔年開催となったのは、1925年に東京帝大蹴球部が京都に遠征し、京都帝国大学の蹴球部創部を祝福する親善試合を行ったことがきっかけでした。これが現在も続く両大学の定期戦の始まりであり、高等学校のア式蹴球大会も共催することになったようです。しかしながら、正月の京都は非常に寒く、吹雪や降雪など悪天候に見舞われることが多く、最初の京都開催となった第6回大会では、寒さのあまり試合中に反対方向に走ってしまう選手が出るような状況でした。

竹腰重丸、手島志郎、若林竹雄、篠島秀雄、堀江忠男、加茂兄弟（加茂健・加茂正五）ら戦前の名選手の他、岡野良定、朝比奈隆、池島信平らもこの大会に出場しました。

最終の二大会を連覇した広島高校（現在の広島大学）に優勝カップが永久保管されています。

大会は1948年で消滅しましたが、1975年から旧制高校OBのインターハイ（SOI）が開催されています。

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