公爵領

公爵領とは：歴史的変遷と各国の事例

公爵領（英語：duchy, dukedom）は、公爵（英語：duke）が支配する領域、知行地、あるいは領地を指します。公爵領のあり方は、各地域の歴史的背景や国家統一の進捗度合いによって大きく異なってきました。

公爵領の歴史

中央集権国家の成立と公爵領

ドイツやイタリアのように、近代に至るまで中央集権的な国家統一が進まなかった地域では、公爵領が主権を持つ国家として存続した例が見られました。一方、イングランド、フランス、スペインのように、中世期に国家統一が進んだ国々においては、公爵領は王国内の一部地域として位置づけられるようになりました。

主権国家としての公爵領

ルクセンブルクのように、伝統的に大公国は主権国家として独立していました。主権を有する公爵領、すなわち公国は、神聖ローマ帝国の範囲を中心に、かつてはドイツ語圏に広く存在していました。

各国の公爵領の事例

フランス

中世期には多数の公爵領が存在しました。イギリス女王エリザベス2世は、チャンネル諸島の領有との関係から、中世フランスの爵位であるノルマンディー公爵位を現在も有していると主張しています。その他の重要なフランスの公爵領としては、ブルゴーニュ公国、ブルターニュ公国、アキテーヌ公国などが挙げられます。

ドイツ

中世ドイツの部族大公領（ドイツ語：Stammesherzogtum）は、フランク王国との結びつきから成立し、主なゲルマン人の部族が定住していた地域にそれぞれ対応していました。部族大公領は、主要な封建的領邦の核となり、神聖ローマ帝国を構成していました。カロリング朝（751年 - 987年）までに、シュヴァーベン、バイエルン、ザクセンが部族大公領として成立し、その後、フランケン、ロートリンゲンが加わりました。

イングランド

中世イングランドにおいては、現在のランカシャーやコーンウォールの領域に公爵領（ランカスター公領、コーンウォール公領）が設けられ、公爵には一定の権力が与えられていました。1351年に設けられたランカスター公爵位は、1399年にヘンリー4世がイングランド王に即位したため、以降は王位とともに継承されることとなりました。今日ではランカスター公爵位は常に王が保有しており、公爵領の地代収入は王室の御手元金となっています。コーンウォール公爵位は、王位継承者のひとりに与えられてきました。今日、コーンウォール公爵領は王位継承権者のうち王の最年長の男子の所有となり、該当者がいない場合は王に返上され、該当者が新たに生まれれば自動的に所領として与えられるようになっています。

これらの公爵領は、政治的な役割は失ったものの、公爵位を継承した領有者に私的な地代収入を生み出し続けています。薔薇戦争の際、ヨーク公エドワード・プランタジネット（後のエドワード4世）は、ヨーク公爵領を領有することの正当性を訴えて、ヨークに無血入城しました。イングランド各地にあった封建制下の公爵領は、その後すべて王家に吸収されることになりました。コーンウォール公爵領とランカスター公爵領を別にすれば、イギリスの王族が保有する公爵位は単なる儀礼称号であり、土地の所有権を含意するものではありません。王族以外の貴族が保有する公爵位は、公爵位に付随する不動産の所有を伴うものとなっていますが、今日では、これらは公爵の個人資産として扱われ、封建的特権は付随していません。

現代における公爵領

現代では、地理的広がりを持った領域として公爵領が存在することは稀になっており、公爵領が純粋に象徴的な性格のものとなって既に数世紀が経っています。今日では、大公国として独立しているルクセンブルクを除き、独立した主権国家となっている公爵領は存在しません。

大公国一覧

ルクセンブルク大公国 - 1815年から現存
ザクセン=ヴァイマル=アイゼナハ大公国
メクレンブルク=シュヴェリーン大公国
メクレンブルク=シュトレーリッツ大公国
オルデンブルク大公国
ヘッセン大公国
バーデン大公国
ベルク大公国
ヴュルツブルク大公国
クラクフ大公国
ポズナン大公国
フィンランド大公国
トスカーナ大公国
リトアニア大公国

歴史上存在した公国、公爵領

ドイツ

クレーフェ公国
ポメラニア公国
ユーリヒ公国
ザクセン公国
バイエルン公国
プファルツ=ノイブルク公領
シュレースヴィヒ公国
ホルシュタイン公国
ザクセン=ラウエンブルク公国
オルデンブルク公国
ブラウンシュヴァイク公国
その他多数

オーストリア

ケルンテン公国
オーストリア公国
シュタイアーマルク公国

イタリア

スポレート公国
マントヴァ公国
ミラノ公国
サヴォイア公国
パルマ公国
その他多数

低地地方

ブラバント公国
リンブルフ公国

フランス

ブルゴーニュ公国
バル公領
ロレーヌ公国
ノルマンディー公国
ブルターニュ公国

ポーランド

プロシア公領
ワルシャワ公国
その他多数

その他

ベラグア公爵領
エストニア公国
バルト連合公国
クールラント・ゼムガレン公国
ナクソス公国

公爵領は、歴史の中で様々な変遷を遂げ、その形態も多様です。この記事が、公爵領の理解を深める一助となれば幸いです。

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