内モンゴル人民革命党粛清事件

内モンゴル人民革命党粛清事件：文化大革命下の悲劇

内モンゴル人民革命党粛清事件は、1966年から1976年の文化大革命期に、中国共産党が内モンゴル自治区のモンゴル人に対して行った大規模な弾圧事件です。この事件は、民族自決を求めるモンゴル人の歴史的な動きを背景に、文化大革命の混乱の中で発生し、多数の犠牲者を出しました。

事件の背景

20世紀初頭、外モンゴルでのモンゴル革命の影響を受け、内モンゴルでは南北モンゴルの統一を目指す動きが活発化しました。その中心となったのが内モンゴル人民革命党（内人党）でした。満洲国崩壊後、東モンゴル自治政府が成立すると、内外モンゴル統一を目指す活動が再燃しましたが、中国共産党のウランフの画策により、内モンゴル人民共和国と東モンゴル自治政府は内モンゴル自治政府に再編され、内人党は中国共産党に吸収される形で解党されました。

1949年の中華人民共和国成立後、内モンゴル自治区には漢人の大量移住が行われ、モンゴル人の人口比率は大幅に低下しました。モンゴル人は伝統的に草原を大切にし、環境に配慮した生活を送っていましたが、漢人入植者は無秩序に灌木を伐採し、草原の砂漠化を招きました。モンゴル人は漢人を「草原に疱瘡をもたらす植民者」と非難しました。

1960年代に入り、中ソ対立が激化すると、「内外モンゴルの統一」を口実としたソ連の介入を警戒した中国共産党は、内モンゴルの自治を徹底的に弾圧しました。

文化大革命下の粛清

1966年、文化大革命が始まると、内モンゴルへの介入はさらに強化されました。鄧小平は、内モンゴル自治区主席だったウランフを「民族分裂主義者」として失脚させ、内モンゴルでは内人党分子とされたモンゴル人に対する大規模な弾圧が始まりました。1969年には内モンゴル自治区に軍政が施行され、1970年には自治区が廃止、周辺の各省に分割されました。

1966年から1976年にかけて、中国政府は内モンゴル自治区をはじめとする地域に居住するモンゴル人に対し、「分裂主義者」「地域国粋主義者」といった罪名で、徹底的な弾圧を行いました。当時の内モンゴル自治区のモンゴル人人口約150万人のうち、70万から80万人が投獄され、34万6000人が逮捕、2万7900人が殺害、12万人が暴行を受けて障害を負い、5万人から十数万人が虐殺されたとされています。この虐殺は、当時の内モンゴル自治区の人口の6割以上を占める大規模なものでした。モンゴル人に対する「罪」は、「対日協力」と「内外モンゴル統一要求」とされましたが、これはモンゴル人への弾圧を正当化するための口実に過ぎませんでした。

虐殺の実態

内モンゴル出身の楊海英氏によると、漢人たちはモンゴル人に対して、焼けた鉄棒を肛門に入れる、鉄釘を頭に打ち込む、女性の陰部を縄で繰り返し引く、妊娠中の女性の胎児を子宮から引き出すなど、凄惨な拷問や虐殺を行いました。内モンゴルのジャーナリストや研究者によると、犠牲者は30万人に達するとされており、その後の漢人入植者の増加によって、モンゴル人の人口は少数派に転落しました。

アルタンデレヘイ氏は、中国共産党がモンゴル人の指導者や知識人を標的にしたと指摘しています。拷問は50種類以上考案され、実行され、焼けた鉄棒で腹部を焼く、鉄線で殴る、傷口に塩を塗って熱湯をかける、頭部をペンチで締め付けるなど、残虐な行為が繰り返されました。女性や子供に対する拷問や虐殺も数多く報告されています。

事件の影響

1979年、内モンゴル自治区は再設置され、ウランフも名誉回復されましたが、内モンゴル独立運動は徹底的に弾圧され、ジェノサイドを行った漢人入植者は処罰されませんでした。1981年には、モンゴル人大学生による大規模な抗議活動が行われましたが、当局の弾圧により、抗議活動を支援したモンゴル人幹部や事件を生き延びた人々も粛清され、モンゴル人大学生は辺鄙な地域へ追放されました。

現在の状況

この事件は、モンゴル人にとって深い傷跡を残し、民族問題の根深い問題を示唆しています。楊海英氏の著作『墓標なき草原内モンゴルにおける文化大革命・虐殺の記録』は、この事件を追及し、司馬遼太郎賞を受賞しました。また、楊海英氏が編集した第一次資料も刊行されており、事件の真相解明に貢献しています。現在、国際社会では、内モンゴル人民革命党粛清事件に端を発したモンゴル人大量虐殺事件は、ジェノサイドとして認識されつつあります。

この事件は、文化大革命期における中国共産党の過ちを象徴するものであり、現在もなお、内モンゴルにおける民族問題の根深い問題として、その影響を残しています。

内モンゴル人民革命党粛清事件