写真編集

写真編集とは、アナログ写真（銀塩写真）とデジタル写真の両方において、写真画像を修正する技術の総称です。フォトレタッチとも呼ばれ、この技術を専門とする人をレタッチャーと呼びます。英語の発音に基づき、フォトリタッチ、リタッチャーと表記されることもあります。

写真編集の歴史

コンピュータが登場する以前の写真編集は、インクや塗料を直接写真に加筆したり、二重露光を施したり、ネガフィルムや写真を暗室で繋ぎ合わせたり、ポラロイド写真を引っ掻いたりする手法が用いられました。また、エアブラシも重要なツールでした。英語では、エアブラシによる編集を "airbrushing" と表現します。

記録に残る最初の写真編集の例としては、1860年代初頭に制作された、ジョン・カルフーンの身体とエイブラハム・リンカーンの顔を組み合わせた肖像写真が挙げられます。この写真では、マシュー・ブレイディが撮影したリンカーンの座像の顔部分を切り取り、立っているリンカーンの全身写真と合成されました。

暗室での写真編集は、単なる技術だけでなく、芸術的な才能も求められる作業でした。デジタル編集とほぼ同様の処理を暗室で行うには、より高度なスキルが必要とされました。

1980年代に入ると、Quantel社のコンピュータとPaintboxやScitexといった専用ワークステーションが登場し、デジタルでの写真編集が可能になりました。1980年代後半には、シリコングラフィックスのワークステーションで動作するBarco Creatorが登場し、その後、各社から画像編集ソフトウェアが販売されました。2000年代以降は、アドビ社のAdobe Photoshopが市場をほぼ独占し、事実上の標準となっています。

コンピュータ、デジタルカメラ、グラフィックタブレットの普及により、写真編集という言葉は、コンピュータ上での作業を指すことが多くなりました。デジタル編集では、デジタルカメラやスマートフォンで撮影した写真を直接コンピュータに取り込みます。デジタルデータがない場合は、リバーサルフィルムやネガフィルム、印画紙の写真をイメージスキャナでデジタル化します。画像編集ソフトウェアでは、様々な効果を適用して画像を加工できます。

写真編集には、色調やコントラストの微調整から、人物の頭部と身体を入れ替えたり、サインを書き換えたりといった大胆な編集まで、幅広い作業が含まれます。編集によっては、元の画像とは全く異なる印象になることもあります。

写真編集の倫理的問題

写真編集は、写真が登場した当初から行われてきました。アメリカ南北戦争時代には、複数のネガフィルムから彫版を作成して出版していました。写真は現実を写し出すものと認識されているため、写真編集は、見る人を欺いたり、物語性を強調したりする目的で行われることがあります。意図的に人を欺く目的で行われた編集は、改竄とみなされ、政治的・倫理的な問題に発展することがあります。

ヨシフ・スターリンは、プロパガンダのために写真の改竄を頻繁に行っていたとされています。1920年5月5日、レーニンがソビエト軍へ演説を行った際、トロツキーも同席していましたが、スターリンはトロツキーを写真から消去させました。また、NKVDのリーダーであったニコライ・エジョフは、スターリンと写った写真から、後に処刑されると消去されました。これらはダムナティオ・メモリアエ（記録の破壊）の一例です。

1920年代には、ベルナール・マクファデンが、ニュース価値を高めるために写真を合成して掲載した最初のジャーナリストとして知られています。1930年代には、ジョン・ハートフィールドが、ナチスのプロパガンダを批判するためにフォトモンタージュという編集技法を用いました。

1960年代末には、イギリスのデザイングループであるヒプノシスが、シュルレアリスム的なアルバムジャケット写真を作成し、現代のフォトモンタージュのスタイルと技法の先駆けとなりました。スーザン・ソンタグは、著書『写真論』（1977年）の中で、写真の客観性と欠如について考察しています。

近年では、AIが生成した架空の人物写真が、宣伝サイトで実在の人物のように装って悪用されるケースも報告されています。

写真編集に関する倫理理論

写真改竄に関する倫理理論も複数提唱されています。William Mitchell は『How to Do Things with Pictures』で写真改竄の歴史を詳しく解説し、批判的に論じています。Aude Oliva は写真編集が改竄とみなされるには明確なシフトが必要であると主張しました。Carson Reynolds は Image Act Theory において、言語行為論を写真編集と改竄に適用しました。

報道写真における編集

1982年、『ナショナルジオグラフィック』誌が表紙写真でエジプトのピラミッド間の距離を縮めたことが議論を呼びました。報道写真の編集は、現実を歪曲していると批判されることもあります。他にも、女性誌『Redbook』でシェールの笑顔とドレスが修正されたり、『ニューズウィーク』誌がマーサ・スチュワートの顔を細身の身体に合成した例があります。

O・J・シンプソン事件では、『タイム』誌が彼の顔を黒く修正した写真を掲載し、『ニューズウィーク』誌の修正されていない写真と比較され、人種差別的な意図があると批判されました。

2006年のレバノン侵攻では、アドナン・ハジ記者が爆煙を誇張したり、ミサイルの数を増やしたりする改竄を行い、ブロガーによって指摘され、大手新聞社から批判を浴びました。2007年には、ピューリッツァー賞候補にもなった写真家アラン・デトリックが、過去に発表した写真の多くを改竄していたことが発覚し、職を失いました。

写真改竄は日常的に行われるようになり、人々は提示された写真が本物かどうかを常に疑うようになっています。デジタル写真が主流の現代では、雑誌などのマスメディアでAdobe Photoshopを使った編集が当たり前になっており、現実と虚構の区別がつきにくくなっています。

倫理規定の文書化

報道写真のデジタル編集に関しては、倫理規定の文書化が進んでいます。1991年には、アメリカ合衆国の全米報道写真家協会 (NPPA) が、写真家向けに「見る人に誤解を与えたり、主題を誤って伝えたりする可能性のある画像処理をしない」ことを徹底するための倫理規定を定めました。

フォトショッピング

フォトショッピングとは、写真のデジタル編集を指す俗語です。Adobe Photoshopに由来する用語ですが、類似のソフトウェアとしてCorel社のPaint Shop ProやGIMPなどがあります。アドビ社は、この用語の使用を好ましく思っていません。しかし、photoshoppingは動詞としても広く使われるようになり、写真の編集や合成、色調調整を意味するようになっています。

ポップカルチャーでは、photoshopping はフォトモンタージュをジョークとして使うことと関連付けられることがあります。例えば、fark.com や MAD 誌に見られるような画像がその例です。フォトショッピングされた画像は、ミームとして電子メールなどで広まります。有名な例としては「サメとヘリコプター」の画像がありますが、これはデマであることが判明しています。

写真編集は、技術の発展とともに常に進化し、私たちの情報認識に大きな影響を与えています。そのため、写真編集の倫理を理解し、情報の真偽を判断する能力を養うことが重要となっています。

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