初風 (エンジン)

初風（はつかぜ、ハ47）

初風（はつかぜ）またはハ47は、第二次世界大戦中に日本で開発された航空用エンジンです。当初、このエンジンはドイツのヒルト社が製造した練習機用エンジン「ヒルト HM 504A」をライセンス生産する計画がありました。しかし、製造過程での技術的な難しさから、日立航空機（当時の名前は東京瓦斯電気工業）が大幅な設計変更を行いました。その結果、初風はヒルト社の設計から派生したものでありながら、実質的には別物として生まれ変わりました。

ヒルトHM504は、独特な倒立式空冷直列4気筒エンジンという設計を採用していましたが、その複雑な構造は製造に高い技術力を必要としました。特にクランクシャフトには高精度の組立式が採用され、ローラーベアリングも多用されているため、日本国内での生産が容易ではありませんでした。現実的な製造および整備を考慮し、瓦斯電はクランクシャフトを一般的な一体鍛造方式に変更し、ベアリング類も当時広く使用されていたメタルの平軸受に切り替えました。

一方で、動弁系はさらに進化を遂げ、ヒルトのシングルカムシャフトからより効率的なツインカムOHVへと変更され、半球型の燃焼室を持つクロスフローレイアウトを採用しています。この改良により、吸排気と燃焼効率が向上し、低オクタンガソリンでも安定した運用が可能となりました。特に、倒立エンジンで懸念される潤滑システムにはドライサンプ方式が導入され、信頼性が向上しました。

こうした設計の見直しを経て、初風はヒルトエンジンに比べ、わずかな重量と体積の増加で優れた性能を実現しました。海軍では「初風一一型」として、陸軍では「ハ47」として知られ、両者を合わせる形で陸海軍共通の呼称「ハ11-11型」にもなります。このエンジンは日立航空機と日産自動車によって製造されました。

初風は大量生産に成功し、特にビュッカーBü 131 ユングマンのライセンス生産版である海軍の「紅葉」（K9W1）や、陸軍の「四式基本練習機」（キ86）に搭載されました。さらに少数ながら、陸軍のキ107や特攻機タ号にも利用されました。また、初風は桜花22型のエンジンとしても採用されていたツ11モータージェットの圧縮機を駆動する役割も果たしています。

性能諸元

• - 形式： 空冷倒立直列4気筒
• - ボア×ストローク： 105 mm×125 mm
• - 排気量： 4.3 L
• - 全長： 957 mm
• - 全幅： 505 mm
• - 全高： 726 mm
• - 乾燥重量： 104 kg
• - 出力： 110 hp（82 kW）/2,450 rpm（離昇）、105 hp/2,400 rpm（公称）

このように、初風（ハ47）は日本の航空技術において重要な役割を果たしたエンジンであり、その設計と生産技術は多くの航空機に影響を与えました。

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