勝山記

勝山記・妙法寺記（かつやまき・みょうほうじき）

概要

『勝山記・妙法寺記』は、戦国時代に編纂された年代記で、甲斐国（現在の山梨県）の河口湖地方を中心とした富士山北麓地域の歴史を記録したものです。この年代記は、地域の政治、社会、文化に関する貴重な情報を提供しており、特に戦国時代の甲斐国を研究する上で欠かせない史料とされています。

書名の由来と諸本

「勝山記」という書名は、江戸時代後期に編纂された地誌『甲斐国志』によって付けられたもので、原本には書名がありませんでした。また、『妙法寺記』という異名も持ち、複数の写本が現存しています。これらの写本は「勝山記」系と「妙法寺記」系に分類され、共通の祖本が存在していたと考えられています。

「勝山記」系の写本では、富士[[河口湖町]]勝山にある冨士御室浅間神社所蔵のものが最も原本に近いとされ、『甲斐国志』の編纂にも用いられました。一方、「妙法寺記」系では、江戸時代に刊行された木版本が最善本とされています。

内容

『勝山記・妙法寺記』には、上代の師安年間（564年）から永禄6年（1563年）までの出来事が複数人の手によって書き継がれています。内容は、甲斐国守護であった武田氏や郡内領主である小山田氏の政治動向を中心に、下宮浅間（現在の冨士山下宮小室浅間神社）の筒粥神事の占い記録、水掛麦といった富士北麓の生活誌、災害の様子など多岐にわたります。

戦国時代の甲斐国に関する同時代の記録としては、『高白斎記』や『塩山向岳庵年代記』、『王代記』などが挙げられ、これらと共に『勝山記・妙法寺記』は、戦国期を中心とする甲斐国中世史研究の基礎史料と位置づけられています。また、武田晴信（信玄）による信濃侵攻に関する記述も多く含まれています。

年代記の前半部分は、『王代記』や『如是院年代記』などの資料を参考に作成されたと考えられており、南北朝時代から記事が増加し、室町時代の文正年間には甲斐国に関する記述が頻出するようになります。この頃から『妙法寺記』系の写本が作られ始めたとされています。永禄年間には、これらの記述が整理され、冊子本として転写が繰り返され、現在残る諸本が成立したと考えられています。

研究史

明治時代には、歴史学者の田中義成が、この年代記を富士[[河口湖町]]小立の妙法寺歴代住職によって書き継がれたものと位置づけました。当初は『妙法寺記』系の刊行本が一般的でしたが、1935年には赤岡重樹による『甲斐叢書』に「勝山記」系の写本が収録されました。1980年代後半には、書名や原本、筆者に関する論争が活発化し、1985年には流石奉が『勝山記と原本の考証』で、一般的には『勝山記』と呼ぶのが妥当であると結論付けました。しかし、笹本正治は『妙法寺記』こそが妥当であると反論し、それぞれの立場から研究が進められました。その後、自治体史などでも翻刻本が刊行され、研究が進んでいます。

『山梨県史』をはじめ、『信濃史料』や『新編信濃史料叢書』などの長野県の史料集にも収録されており、その重要性が広く認識されています。

「日国覚書」の発見

1995年、山梨県史編纂事業における古文書調査で、常在寺所蔵の「日国覚書」という新史料が発見されました。これは『勝山記・妙法寺記』の原本系統に属すると考えられる断片的な記録で、特に1491年から1494年の記述が詳細です。筆者である戒善坊日国は、1508年に常在寺に移ったとされ、1500年から1525年まで住職を務めていました。

「日国覚書」の発見を受けて、大木丈夫や末柄豊、柴辻俊六らが諸本の系統を再検討し、論文を発表しました。大木は妙法寺の僧侶による筆写を支持し、末柄は「常在寺衆中記」という新たな書名を提唱しました。柴辻は両説の妥当性を認めつつ、慎重な姿勢を示しています。

「日国覚書」は『山梨県史 資料編』に収録されています。

まとめ

『勝山記・妙法寺記』は、戦国時代の甲斐国、特に富士山北麓地域の歴史を詳細に記録した貴重な年代記です。複数の写本が存在し、研究者によって様々な解釈がなされてきましたが、現在も中世史研究の重要な資料として活用され続けています。「日国覚書」の発見は、この年代記の研究に新たな視点をもたらし、今後の研究の進展が期待されています。

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