冨士山下宮小室浅間神社

概要

冨士山下宮小室浅間神社は、山梨県富士吉田市に位置し、富士北麓地域一帯の産土神として崇敬を集める神社です。旧社格は郷社であり、現在は神社本庁の別表神社となっています。地元では「下宮さん」「下浅間」とも呼ばれ、親しまれています。特に、年間を通じて行われる祭事において、「占い」が重要な役割を果たしており、特に「馬蹄占」を行う流鏑馬祭や筒粥祭は、地域住民の生活に深く根ざした古い富士山信仰を今に伝えています。

祭神

祭神は木花咲耶姫命です。

歴史

社伝によれば、延暦12年（793年）に征夷大将軍坂上田村麻呂が東征の際に富士山を遙拝し戦勝を祈願、その後の大同2年（807年）に社殿を造営したのが始まりとされています。古い記録では「宮」と記され、宝永3年（1708年）までは「浅間宮」と呼ばれていました。

かつて下吉田の集落は現在の下吉田東町にあり、東町金毘羅神社の地に祀られていましたが、雪代被害のため現在の地に移転しました。建武2年（1355年）には、大塔宮護良親王の首が桂の神木の根元に葬られたという伝承も残っています。天正4年（1576年）には北条氏と小山田氏の戦いで社殿が焼失しましたが、江戸時代には月江寺の鎮守として復興しました。寛永3年（1626年）には社中の杉が落雷で焼失し、その一部は現在の拝殿に扁額として飾られています。

拝殿は天正年間の造りで、本殿は明和4年（1767年）に郡内大工棟梁萱沼弥左衛門によって建てられました。この本殿は山梨県最大の一間社で、郡内地方の社殿建築の模範となりました。

明治時代に入り、氏子地域であった上吉田を北口本宮冨士浅間神社に割譲し、神社名を「小室浅間神社」に改称しました。祭神も木花咲耶姫命に統一され、神紋も変更されました。

1957年（昭和32年）には、隣接する小学校の校庭拡張のため、境内地と市有地が交換され、別表神社に列格しました。

下宮の由来

富士山に対する「下宮」という名称の由来には諸説あります。かつては単に「宮」と呼ばれていましたが、周辺地域に浅間神社が増えたため区別する必要が生じ、「下宮」と呼ばれるようになったとする説が有力です。また、富士山二合目にあった小室浅間神社を「上宮」とする説は、現在では否定されています。

また、地元では北口本宮冨士浅間神社を「上浅間」、当社を「下浅間」と呼ぶことがありますが、本来「下浅間」とは北口本宮冨士浅間神社を指していました。この混同は、明治以降に起こったものと考えられています。

祭事

流鏑馬祭り

山梨県無形民俗文化財に指定されている流鏑馬祭は、毎年9月19日に行われる例祭です。この祭りは、馬の足跡で吉凶を占う「馬蹄占」を行う点が特徴で、地元では「うまっとばし」と呼ばれています。流鏑馬は、長寛2年(1164年)中興馬乗りから始まり、安元2年(1176年)に流鏑馬をすることが定められました。祭礼では神馬が飼育されており、例祭では世襲の「占人」が神籤や切火の儀式を行い、地域住民の生活に深く関わっています。

祭りは、1月15日の筒粥祭明けの「馬出しのくじ占」から始まり、9月1日の「初馬揃」、9月9日の「中馬揃」、9月13日の「潔斎始」、9月15日の「後馬揃」と続き、9月18日の宵宮祭、9月19日の例大祭流鏑馬祭、9月20日の後祭と、長期間にわたって行われます。

流鏑馬はかつて、中の茶屋近くの「騮ヶ馬場」で行われていましたが、その後、長馬場を経て、江戸時代後期には現在の「本町中村馬場」で行われるようになりました。

2007年（平成19年）には、担ぎ手不足で途絶えていた富士山神輿が復活し、宵宮祭で巡行が行われています。

馬出しの神籤祭

1月15日早朝、筒粥祭の結果が公表された後、流鏑馬祭奉仕希望者の申し込みが行われ、正午から神事による奉仕馬のくじ引きが行われます。かつては多くの申し込みがありましたが、近年は定数に満たない状況です。

初馬揃祭

9月1日、例大祭に出る馬が神社に集まり、神事が行われます。各馬主は稽古鞍授与の神籤を引き、占人から稽古用の馬具一式を受け取ります。

中馬揃祭

9月9日、奉仕馬が集まり、神事の後、馬場ならし・馬駆けを行います。

潔斎始祭

9月13日、流鏑馬の馬主・奉仕者が神社境内の潔斎館に移り住み、潔斎生活に入ります。

後馬揃祭

9月15日、各馬主は神馬の装飾を授与され、流鏑馬本番に使用する本鞍を選ぶ神籤を引きます。

山王社宵宮祭

9月17日、馬主・奉仕者が山王社に参拝し、占人から儀式の伝授を受けます。

山王社祭・流鏑馬祭宵宮祭

9月18日、流鏑馬に関わる人々が山王社へ参向し、富士山神輿が巡行します。夜には宵宮祭が行われ、馬主ごとに役馬の担当と順番が決定されます。

例大祭流鏑馬祭

9月19日、神事で矢、弓、的が馬主に渡され、流鏑馬と馬蹄占が行われます。最後に山王馬のノッパライが行われます。

流鏑馬後祭

9月20日、流鏑馬の結果が各町に伝えられます。

お日待ち

流鏑馬祭が終わると、各町内で神職を招き、馬蹄占の結果をもとに「お日待ち」と呼ばれる祭事を行います。住民が集まり飲食を共にして、無病息災を祈ります。

筒粥祭

毎年1月14日から15日にかけて行われる筒粥祭は、年間の五穀豊穣、天候、養蚕、富士山登拝者数を占う神事です。結果は筒粥占標として公表されます。また、囲炉裏の燠の上で「カツノキ」の駒を焼いて天候を占う「テリフリ占い」も行われます。

小室浅間神社の筒粥神事は、『勝山記』にも記録されており、戦国時代からほぼ同じ形式で行われていたと考えられます。筒粥神事にも世襲の「占人」一族がおり、当社の祭儀に占いが重要な役割を果たしていることがわかります。

御更衣祭

60年に一度、祭神の着衣を替える御更衣祭が行われます。20世紀には1950年（昭和25年）に、21世紀には2010年（平成22年）に実施されました。次回は2070年に行われる予定です。

神馬祭

毎年5月5日こどもの日に行われ、馬への感謝と慰霊を行う祭りです。地元商店会の出店やイベントで賑わいます。

御神馬

境内で飼育されている御神馬は、流鏑馬祭の維持に欠かせない存在です。歴代の御神馬は神馬社に合祀されており、毎年5月5日の神馬祭で供養されます。神馬舎では、御神馬のほか、木曽馬やポニーも飼育されています。

摂末社

大塔宮社・雛鶴社

大塔宮護良親王と雛鶴姫を祀る社で、境内にある桂の御神木に祀られています。例祭は5月10日です。

神馬社

白馬像で馬の御霊を祀る社で、例祭は5月5日に行われます。

日枝社

大山咋神を祀る社で、地元では「お猿さん」と呼ばれ親しまれています。例祭は5月5日です。

五社神社

天照皇大神など複数の神を祀る社で、例祭は4月10日です。

室宮恵比寿社

恵比寿を祀る社で、例祭は11月19日夜に行われます。

胎内弁天社

弁財天を祀る社で、溶岩樹形を利用した古祠です。

荒田八幡宮

誉田別命などを祀る社です。

水天宮

天御中主神などを祀る社です。

境外社

金刀比羅社

大物主命を祀る社で、旧社地であるとも伝えられています。

白王社（白王権現社）

大己貴命などを祀る社で、虫祭り（虫送り）が行われます。

現地情報

所在地：山梨県富士吉田市下吉田三丁目32-18

交通アクセス：富士山麓電気鉄道富士急行線 下吉田駅 徒歩5分

参考文献

勝俣鎮夫「「勝山記」の生活世界」『山梨県史 通史編2 中世』2007年

関連項目

北口本宮冨士浅間神社
月江寺
小室浅間神社（富士吉田市大明見）
冨士御室浅間神社
神馬
流鏑馬
おみくじ
粥占
郡内大工仲間

外部リンク

山梨の文化財ガイド・下吉田の流鏑馬（山梨県）
冨士山下宮小室浅間神社（公式サイト）

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