半井驢庵

半井驢庵（なからい ろあん）について

半井驢庵とは、室町時代から江戸時代にかけて、医家として知られた半井家において、半井明親（初代驢庵）の子孫が代々受け継いだ名です。特に、数名の当主は「通仙院」という院号も称していました。半井驢庵家、特に半井通仙院家は、江戸幕府において奥医師の長である典薬頭を、今大路道三家（曲直瀬道三の末裔）と共に務めるという、重要な役割を担っていました。

歴代の半井驢庵

初代　半井明親

「驢庵」という名を初めて名乗った半井明親は、室町時代後期の人物で、典薬頭を務めた和気（半井）利長の子として生まれました。永正年間（1504年 - 1521年）に明へ渡航し、当時の皇帝であった正徳帝（武宗）の診察を行った際、その功績により銅硯1面と驢馬2頭を授与されました。帰国後、驢馬1頭を後柏原天皇に献上し、明の官服を着用し驢馬に乗って参内することを許されると共に、「驢庵」の称号を与えられました。半井家の家紋である裏菊は、将軍足利義政（1436年 - 1490年）から贈られたもの、または天皇から与えられた中啓（扇子の一種）の紋様を家紋としたもの、という説があります。また、半井家の家名そのものは、明親の屋敷にあった井戸に由来するとされています。天文16年（1547年）に亡くなり、大徳寺真珠庵に葬られました。

二代　半井光成（瑞策）

二代驢庵は、初代驢庵（明親）の次男として生まれ、諱を光成、号を瑞策と称しました。正親町天皇（在位: 1557年 - 1586年）より『医心方』30巻と通仙院の院号を授与されました。正親町天皇の時代には法印に叙することが検討されましたが、先任の法印がいたため、深黒の素絹を着用することを許され、僧綱によらずに法印の上席とされました。これは他の医官にはない、半井家だけの特例となりました。文禄5年/慶長元年（1596年）に亡くなりました。

三代　半井成信（瑞桂）

三代驢庵は、二代驢庵（瑞策）の子として生まれ、諱を成信、号を瑞桂・任世翁・通仙院と称しました。徳川家康や徳川秀忠に薬を調進するなど、幕府との関係も深く、寛永元年（1624年）には父の先例に倣い、法印に叙されずに勅命によって深黒の素絹の着用を許されました。また、「通仙院」の院号を称することを許され、「驢庵」の号は嫡孫である半井成近に譲っています。『寛政譜』によれば寛永15年（1638年）に京都で亡くなったとされていますが、大徳寺真珠庵の墓石銘には寛永16年（1639年）没と記されています。

四代　半井成近（瑞寿）

四代驢庵は、三代驢庵（成信）の孫として生まれ、諱を成近、号を瑞寿と称しました。寛永元年（1624年）に江戸に召し出され、徳川家光に奥医師として仕え、寛永9年（1632年）には相模国高座郡で1000石の知行を与えられました。寛永16年（1639年）には家光の命を受け京都に派遣され、東福門院の治療にあたりました。久志本常尹と交互に朝廷に勤仕するよう命じられ、祖父の遺領であった山城国愛宕郡内500石も合わせて1500石を知行しましたが、同年に京都で亡くなりました。知行地の高座郡本郷村（現在の神奈川県海老名市本郷）には屋敷が設けられ、付近には「驢庵坂」などの地名が残っています。同地には四代驢庵（成近）が植えたとされるハルニレの木が現存しています（有馬のハルニレ）。

五代以降

五代驢庵は半井成忠（瑞堅）、六代は半井達時（瑞章）、七代は半井成明（瑞英）、八代は半井成庸（瑞閏）と続きました。

その後、半井成高が典薬頭となりましたが、『寛政譜』には「驢庵」を称したとは記されていません。同様に、成高の子である半井成美についても同様です。半井成美は、家蔵の『医心方』についての幕府の問い合わせに対し、不適切な言上を行ったとして出仕停止処分を受けています。これは、半井家が門外不出とした『医心方』の借覧と写本製作を目指した奥医師多紀家との攻防の一幕でした。半井成美の養子である半井清雅は、河内国狭山藩主北条氏昉の子であり、清雅の跡を継いだ半井広明は六郷氏からの養子でした。幕末期の典薬頭は広明の子である半井広国であり、明治維新に伴い俸禄を返上し、1901年（明治34年）に後継者なく亡くなりました。

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