南化玄興

南化玄興（なんか げんこう）

南化玄興は、室町時代後期から江戸時代初期にかけての臨済宗の僧侶で、南化宗興とも呼ばれます。虚白という別号も持ち、快川紹喜の弟子として妙心寺58世を務めました。その生涯は、戦国時代の動乱期と重なり、多くの戦国武将や後陽成天皇といった時の権力者から深く帰依されたことで知られています。没後、定慧円明国師の諡号が贈られました。

生涯

南化玄興は美濃国（現在の岐阜県）に生まれました。俗姓は一柳氏とされ、小野藩主一柳家に伝わる文書によれば、一柳宣高の子であるとされています。これは、豊臣秀吉に仕えた大名、一柳直末・直盛兄弟の叔父にあたることを意味します。一方で、妙心寺の歴史書には、土岐氏出身とも記されており、出自については諸説あります。

僧侶としての道を歩み始めたのは、邦叔宗禎によって得度したことがきっかけです。その後、崇福寺（現在の岐阜市長良福光）の住持であった快川紹喜に師事し、永禄7年（1564年）には、師とともに甲斐国恵林寺（甲州市塩山小屋敷）に滞在し、印可を受けました。妙心寺史によると、永禄末年には、稲葉良通（稲葉一鉄）が母の菩提寺として創建した華渓寺（大垣市曽根町）の開山となり、多くの人々の信頼を集めたとされています。一柳氏と稲葉氏は、ともに伊予河野氏の流れを汲む同族とされています。

元亀元年（1570年）、33歳で妙心寺58世住持に就任し、その後、4度にわたって住持を務めました。天正4年（1576年）には、織田信長が安土城を築城した際、天龍寺の策彦周良の推薦で「安土山記」を著し、信長を喜ばせたという逸話が残っています。天正9年（1581年）には、美濃国瑞龍寺（岐阜市寺町）に住しました。

快川紹喜の弟子であったことから、甲斐武田氏との繋がりも深く、天正8年（1580年）に武田勝頼が織田信長との和睦を模索した際には、交渉役の一端を担いました。天正10年（1582年）に武田家が滅亡した後には、京都で晒されていた武田勝頼、信勝、信豊の首を、信長を説得して妙心寺に引き取り、武田信玄の分骨墓の傍らに埋葬し、手厚く弔いました。

天正14年（1586年）には、一柳直末を開基として妙心寺に塔頭の大通院を開きました。天正18年（1590年）には、衰退していた尾張国妙興寺（一宮市大和町）に入り、その復興に尽力し、中興の祖となりました。

天正19年（1591年）に豊臣鶴松が亡くなると、妙心寺での葬儀を主導しました。これは、鶴松の守役であった石川光重が南化玄興に深く帰依していたことが縁になったとされています。鶴松の菩提寺として創建された京都東山の祥雲寺の開山にもなりました。この祥雲寺は後に智積院に合併されますが、2世住持の海山元珠（南化の弟子）は、鶴松と南化の木像を背負って隣華院に移ったと伝えられています。

鶴松の葬儀を機に、南化玄興は豊臣秀吉からの信頼を厚く得、その法席は大いに賑わいました。特に、山内一豊、稲葉貞通、脇坂安治は「南化下の三居士」と呼ばれ、南化玄興の有力な支援者となりました。山内一豊は大通院を支え、稲葉貞通は慶長2年（1597年）に父である稲葉一鉄の菩提を弔うために智勝院を建立し、弟子の単伝士印を開山としました。大通院と智勝院の名称は、両氏の祖先とされる河野氏の氏神である大山祇神の本地仏が大通智勝仏であることに由来します。

慶長4年（1599年）には、脇坂安治が開基となって建立した妙心寺塔頭・隣華院に開祖として迎えられました。隣華院は、南化玄興の隠居所として安治が建てたものとされています。実際に入寺したのは慶長9年（1604年）ですが、その年の5月20日（1604年6月17日）、隣華院にて入寂しました。翌慶長10年（1605年）、一周忌の際には後陽成天皇から「定慧円明国師」の号が贈られました。

著作

南化玄興は文集として『定慧円明国師虚白録』3巻及び外集1巻（別名『虚白録』『（南化和尚）虚白外集』）を著しました。また、多くの画賛を残しており、高台寺所蔵の豊臣秀吉像（狩野光信筆）への賛文は特に有名です。この秀吉像への賛文は、田中吉政の求めに応じたものとされています。

法統

師:
快川紹喜

主な法嗣:
単伝士印 - 妙心寺智勝院開山
湖南宗嶽 - 月桂院（岐阜県揖斐川町）、月桂寺（大分県臼杵市）開山
三江紹益 - 高台寺中興開山
泰雲宗峻 - 妙心寺住持
龍雲宗珠 - 大慈寺（鹿児島県志布志市）住持
禹門玄級 - 梅林寺（福岡県久留米市）開山
鼇山景存
海山元珠 - 祥雲寺2世、妙心寺雲祥院開祖

備考

恵林寺が焼き討ちにあった際、落ち延びた僧侶たちによって、快川紹喜らの最期の逸話が伝えられたとされています。『常山紀談』には、快川紹喜の命を受けて最初に山門から飛び降りた弟子を「南華」と記していますが、これは湖南宗嶽の誤記であるとされています。

隣華院には、南化玄興像のほか、着用していた袈裟や墨蹟などが伝えられています。

参考文献

『新版禅学大辞典』
川上孤山『妙心寺史 上』妙心寺派教務本所、1917年。
一柳貞吉『一柳家史紀要』1933年。
引間俊彰「隣華院」『京都の文化財』第31号、京都府教育委員会、2013年。
平山優『武田氏滅亡』KADOKAWA、2017年。

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