稲葉良通

稲葉良通：西美濃三人衆の知略と武勇を兼ね備えた武将

稲葉良通は、戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した、稀代の武将です。斎藤氏、織田氏、そして豊臣氏と、時代の変遷の中で幾多の戦場を駆け抜け、その知略と武勇で名を馳せました。美濃国曽根城を拠点とし、安藤守就、氏家直元と共に「西美濃三人衆」と呼ばれ、美濃国の情勢に大きな影響を与えた人物の一人と言えるでしょう。春日局の養祖父という側面も持ち、その生涯はまさに波瀾万丈でした。

出自と家督相続

良通の祖父、稲葉通貞は伊予国河野氏の一族と伝えられていますが、美濃国に移り住み土豪となりました。安藤氏と同族、あるいは伊賀氏の末裔とする説もあり、その出自には諸説あります。永正12年（1515年）、美濃国池田郡本郷城で、美濃の国人・稲葉通則の六男として誕生しました。幼少期は崇福寺で僧侶として学び、著名な僧侶、快川紹喜の下で仏教の教えを修めました。しかし、大永5年（1525年）、牧田の戦いで父と5人の兄が戦死したことを受け、還俗。叔父である稲葉忠通の後見の下、家督と曽根城を継承することとなります。

土岐・斎藤氏時代

良通は当初、土岐頼芸に仕えましたが、後に頼芸を追放して美濃を掌握した斎藤道三に仕えるようになりました。西美濃三人衆の一員として活躍し、道三とその子・義龍の間で勃発した長良川の戦いでは、義龍側に加勢しています。興味深いことに、良通の姉・深芳野は、最初は頼芸の側室でしたが、後に道三の側室となり、義龍を産みました。

道三の娘婿である織田信長が尾張を統一し、桶狭間の戦いで今川義元を破ると、美濃攻略の機運が高まります。斎藤義龍が病死し、その子・龍興が家督を継ぐと、信長は本格的な美濃侵攻を開始。良通は森部の戦い、軽海の戦いなどで活躍しますが、永禄6年（1563年）、他の西美濃三人衆と共に龍興に諫言するも聞き入れられず、翌年には竹中重治と安藤守就による稲葉山城占拠という事態に繋がります。一時は和解も成立しましたが、永禄10年（1567年）、三人衆は織田信長に与し、斎藤氏から離反しました。

織田信長時代

信長の上洛に従軍した良通は、その後も数々の戦いで活躍します。大河内城攻囲戦では南方を守備し、朝倉義景討伐の際には守山城を守り、一揆勢の攻撃を撃退。その武功は信長から高く評価され、感状が与えられたと伝えられています。長島一向一揆討伐、河内交野城救援などにも参加し、槇島城の戦いでは嫡男貞通、嫡孫典通と共に参戦しました。

天正2年（1574年）、良通は出家し、「一鉄」と号します。長篠の戦い、越前一向一揆攻め、岩村城攻め、天王寺の戦い、紀州征伐、加賀一向一揆攻め、神吉城攻め、有岡城の戦いなど、数多くの戦いで武功を挙げました。天王寺の戦い後には左足親指に腫瘍を患いますが、自ら薬を調合して治療に成功したという逸話も残っています。天正7年（1579年）、家督を貞通に譲り、自身は美濃清水城に移りました。

本能寺の変とその後

天正10年（1582年）、本能寺の変が勃発。信長が横死すると、良通は美濃国人衆を糾合し、甥の斎藤利堯を岐阜城に擁立。明智光秀に対抗しようとしましたが、信長に追放されていた安藤守就の一族が光秀と手を結び、旧領奪還を企てます。良通はこれを撃退し、守就を討ち取ります。山崎の戦いで光秀が滅亡した後も、美濃では諸将の衝突が続きました。良通は娘婿である堀池半之丞と戦い、その領地を支配下に置きました。この頃、外孫の福（後の春日局）を稲葉家に引き取り、成人するまで清水城で育てたと考えられています。

清洲会議の後、織田信孝が岐阜城を相続しますが、良通は信孝と対立を深め、羽柴秀吉に接近。賤ヶ岳の戦いでは信孝から城下の焼き討ちを受け、柴田勝家方の西保城を攻めました。岐阜城主となった池田恒興とは領地境界を巡って争いがありましたが、秀吉の仲介により領地が安堵されました。小牧・長久手の戦いにも参加した後、一線から退き、天正13年（1585年）には秀吉から法印に叙せられ、「三位法印」と称しました。天正16年（1588年）、美濃清水城で74歳で亡くなりました。

逸話

良通は茶道にも造詣が深く、数々の逸話が残されています。信長に讒言された際、禅僧の書画を読み解き、自らの無実を証明したという話や、敵の間者を寛大に許した話、紀州征伐で信長に代わり雑賀兄弟を降伏させた話、常に貧しい人々に施しを行った話など、良通の人物像を多角的に理解できるエピソードです。また、能楽にも造詣が深く、戦略家としても優れた人物でした。

稲葉良通は、武勇、知略、そして人徳を兼ね備えた武将でした。数々の戦いを生き抜き、時代の変化に対応しながら、独自の立場を保ち続けたその生涯は、戦国時代の激動期を生き抜いた一人の武将の姿を鮮やかに描き出しています。彼の生き様は、後世に多くの影響を与え続け、今もなお語り継がれています。

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