南北戦争の騎兵

南北戦争における騎兵

南北戦争において、騎兵は単なる補助兵科ではなく、重要な役割を担う存在でした。しかし、その運用は多くの課題に直面し、試行錯誤を繰り返しながら進化していきました。騎兵は、新技術の脅威、兵站の困難、そして不適切な指揮官の存在といった問題に常に晒されながらも、歩兵や砲兵と並ぶ重要な戦力として、戦争の行方を左右する存在となりました。

騎兵部隊の種類

南北戦争で使用された騎兵部隊は、大きく分けて4つの種類が存在しました。

騎兵隊:
馬に乗り、カービン銃、拳銃、そしてサーベルで武装した兵士で構成されていました。しかし、南北戦争全体で見ると、この定義に合致する騎兵隊は少数でした。主に北軍で戦争前半の東部戦線において見られましたが、南軍ではカービン銃やサーベルを装備しないのが一般的でした。一方、西部戦線の南軍連隊には、開戦当初ショットガン（散弾銃）を装備する部隊も見られました。

騎馬歩兵隊:
移動時には馬を利用しますが、戦闘時には馬から降りて、ライフル銃で武装して戦いました。戦争後半には、騎兵と見なされた部隊の多くが、この戦術を採用しました。ジョン・T・ワイルダー大佐が率いる「ライトニング旅団」は、チカマウガの戦いなどの戦場に馬で素早く到着し、歩兵隊形での戦闘を行いました。対照的に、ゲティスバーグの戦いでは、ジョン・ビュフォード指揮の北軍騎兵隊が下馬して戦いましたが、彼らは伝統的な騎兵戦術、武装、隊形を使用しました。

竜騎兵隊:
騎兵と同様の武装を持ち、騎馬での戦闘だけでなく、下馬して歩兵としての戦闘も行うことが期待されたハイブリッド部隊でした。フランス陸軍から派生したこの部隊は、軽装騎兵と歩兵の中間的な存在でした。1864年に北軍のフィリップ・シェリダン将軍が採用した戦術や、南軍のウェイド・ハンプトン将軍がイェロータバンの戦い後に採用した戦術は、竜騎兵のモデルに合致するものでしたが、これらの部隊は竜騎兵とは呼ばれませんでした。

非正規部隊:
パルチザン・レンジャーやゲリラ部隊として知られ、概して騎馬で活動しました。武器は多様で、手に入るものを使用しました。南軍には、ウィリアム・クァントリル、ジョン・S・モスビー、ネイサン・ベッドフォード・フォレスト、ジョン・ハント・モーガンといった著名な指揮官が存在しました。フォレストやモーガンは、いくつかの作戦で伝統的な騎馬歩兵戦術も利用しました。

騎兵の役割

南北戦争における騎兵の任務は、大きく分けて以下の5つでした。

1. 偵察と対偵察:
敵の位置や動向を把握し、自軍の動きを隠蔽する。これは、現代の軍隊でも重要な役割です。騎兵は軍隊の「目」として機能しました。

2. 防御と敵の遅延行動:
敵の進撃を遅らせ、自軍の退却を支援する。

3. 敗走する敵部隊の追撃と嫌がらせ:
敗走する敵部隊を追撃し、戦力を削ぎ、再編成を防ぐ。

4. 攻撃行動:
騎兵による突撃は、かつては主要な戦術でしたが、ライフル銃の登場によりその有効性は低下しました。

5. 敵の通信線、供給基地、鉄道などに対する長駆襲撃:
敵の補給線を攻撃し、敵の戦力を削ぎます。成功すれば名声を上げることができましたが、戦略的な価値は限定的でした。J.E.B.スチュアートの襲撃は有名ですが、多くは戦略的な価値よりも、相手をかく乱する目的がありました。ベンジャミン・グリアソンの襲撃のように、作戦の成功に貢献した例も存在します。

かつて騎兵は、敵の歩兵隊形を包囲するために突撃する戦術が有効でしたが、施条マスケット銃の登場により、その射程距離が伸びたことで、騎兵突撃は非常に危険なものとなりました。騎兵は、敵の歩兵よりも騎兵に対して攻撃を行うことが多くなりました。

組織

騎兵連隊は、当初は10個中隊で構成されていましたが、後に12個中隊に変更されました。複数の部隊は、必要に応じて大隊や翼として編成され、他の2ないし4個連隊と組み合わされて旅団を構成することが一般的でした。終戦までに、北軍は272個、南軍は137個の騎兵連隊を編成しました。当初、騎兵連隊は歩兵部隊に分散して配属されていましたが、偵察や襲撃の重要性が認識されるにつれ、より大きな命令系統下で運用されるようになりました。北軍では騎兵軍団が創設され、南軍ではJ.E.B.スチュアートの下で騎兵が統合されました。両軍共に、騎兵は騎馬砲兵隊や輜重隊を伴っていました。

装備

騎兵の基本的な装備は馬であり、両軍ともに騎兵部隊の維持には多大な費用がかかりました。騎兵1個連隊の立ち上げには30万ドルが必要で、年間維持費は10万ドルを超えました。当初、両軍は騎兵を徴募し、地方の町に馬の提供を求めましたが、北軍では短期間で中止されたのに対し、南軍では戦争終結まで行われました。北軍は、民間との契約によって馬を調達し、厳格な検査を行ったことで、戦中に約65万頭の馬を確保することができました。南軍は、馬の数が限られていたため、馬の選択には制約がありました。

騎兵の馬の価格は、戦争中に高騰し、南軍では終戦までに3,000ドル以上になりました。北軍の馬の餌は1日あたり干し草10ポンド、穀物14ポンドと定められていましたが、供給が安定しないこともありました。両軍ともに、獣医の不足が馬の健康問題を引き起こし、馬の浪費につながりました。アメリカ陸軍に獣医司令部が設立されたのは1916年になってからでした。

騎兵隊の機動性は高く、スチュアートのチェンバーズバーグ襲撃では、27時間で130km移動した例もあります。しかし、極端な移動は部隊の準備を疎かにし、長い回復期間を必要としました。スチュアートは、ゲティスバーグ方面作戦時に、地元の農家や町人から換え馬を購入して対応しました。これらの馬は訓練されておらず、戦闘で不利になることもありました。

騎兵が携帯する武器としては、カービン銃、サーベル、拳銃が一般的でした。カービン銃は、ライフル銃より短く、馬上で扱いやすいため、多く使われました。連発式のスペンサー銃も導入されましたが、普及は限定的でした。サーベルは、北軍騎兵が多用しましたが、南軍兵は時代遅れと見なし、あまり使いませんでした。拳銃は、南軍騎兵が好んで使用し、接近戦で効果を発揮しました。

南軍騎兵隊

南部人は、北部人よりも乗馬技術に長けていると一般的に考えられていました。南部の社会構造や奴隷を捕獲するための偵察部隊の存在も、騎兵隊の発展に寄与しました。南軍の騎兵は、自分で馬を所有し、月額で補償を受けていました。馬が死んだ場合には、自分で馬を補充するか、歩兵になる必要がありました。

J.E.B.スチュアートは、南軍で最初に名を上げた騎兵指揮官で、大胆な行動で人気を集めました。1864年に戦死した後は、ウェイド・ハンプトンが後を継ぎました。西部戦線では、ネイサン・ベッドフォード・フォレストが恐れられ、ジョン・ハント・モーガンも同様の評価を得ました。ジョン・S・モスビーは、小規模な部隊で北軍を釘付けにし、そのゲリラ戦術で知られています。

北軍騎兵隊

開戦時、北軍は正規兵の騎馬連隊5個で始まりました。当初、騎兵の追加には消極的でしたが、戦争が進むにつれて騎兵の価値が認識されるようになりました。北軍は、最終的に285個の騎兵連隊と170の中隊を編成しました。

北部兵は南部兵に比べて乗馬経験が乏しく、訓練体制も不十分でしたが、馬を調達する組織が整備されており、傷ついた馬を交換することができました。ジョセフ・フッカー少将は、騎兵を統合し、有効活用した最初の指揮官でした。1863年夏には、北軍騎兵隊は南軍騎兵隊と互角に戦えるようになりました。1864年にフィリップ・シェリダンが騎兵軍団の指揮を執り、騎兵をより効果的に戦略的に利用しました。

西部戦線では、ベンジャミン・グリアソンがビックスバーグ方面作戦で活躍し、ジェイムズ・H・ウィルソンは、アラバマ襲撃で成果を上げました。

騎兵が参加した重要な戦闘と襲撃

ブランディ・ステーションの戦い
チャンセラーズヴィルの戦い
ゲインズミルの戦い
ゲティスバーグの戦い
フランクリンの戦い
セイラーズクリークの戦い
セルマの戦い
トレビリアン・ステーションの戦い
イェロータバンの戦い
ダールグレンの襲撃
ゲティスバーグ方面作戦
グリアソンの襲撃
メリーランド方面作戦
半島方面作戦
プライスの襲撃
ストレートの襲撃
ウィルソンの襲撃

これらの戦闘と襲撃を通して、騎兵は南北戦争において重要な役割を果たし、その戦略的な価値と戦術的な重要性が証明されました。騎兵隊は、偵察、襲撃、追撃など多岐にわたる任務をこなし、戦争の行方に大きな影響を与えたのです。

参考文献

Introduction to Civil War Cavalry
Longacre, Edward G. Lincoln's Cavalrymen: A History of the Mounted Forces of the Army of the Potomac.
Longacre, Edward G., and Eric J. Wittenberg. Unpublished remarks to the Civil War Institute, Gettysburg College, June 2005.
Mackey, Robert R. The UnCivil War: Irregular Warfare in the Upper South, 1861-1865.
Nosworthy, Brent. The Bloody Crucible of Courage, Fighting Methods and Combat Experience of the Civil War.

関連図書

Gerleman, David J. "Warhorse! Union Cavalry Mounts." North and South Magazine Vol. 2, No. 2, (January 1999), pp. 47–61.
Longacre, Edward G. The Cavalry at Gettysburg.
Longacre, Edward G. General John Buford: A Military Biography.
Longacre, Edward G. Lee's Cavalrymen: A History of the Mounted Forces of the Army of Northern Virginia.
Starr, Stephen Z. The Union Cavalry in the Civil War. Vol. 1, From Fort Sumter to Gettysburg 1861–1863.
Starr, Stephen Z. The Union Cavalry in the Civil War. Vol. 2, The War in the East from Gettysburg to Appomattox 1863–1865.
Starr, Stephen Z. The Union Cavalry in the Civil War. Vol. 3, The War in the West 1861–1865.
Wills, Brian Steel. The Confederacy's Greatest Cavalryman: Nathan Bedford Forrest.
Wittenberg, Eric J. Glory Enough For All: Sheridan's Second Raid and the Battle of Trevilian Station.
Wittenberg, Eric J. The Battle of Brandy Station: North America's Largest Cavalry Battle.

外部リンク

Overview of Civil War cavalry by Eric J. Wittenberg
Cooke's Cavalry Tactics (1862)
Maps: Battle of Brandy Station
Brandy Station: The Action on Fleetwood Hill
1st Maine Cavalry Federal Cavalry living history organization
10th Illinois Volunteer Cavalry living history organization

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