ジョセフ・フッカー

ジョセフ・フッカー：勇猛な将軍と不運な敗北

ジョセフ・フッカー（Joseph Hooker, 1814年11月13日 - 1879年10月31日）は、アメリカ合衆国の職業軍人であり、南北戦争においては北軍の少将として活躍しました。彼は「ファイティング・ジョー」という渾名で知られ、その勇猛な戦いぶりは多くの人々に記憶されています。しかし、1863年のチャンセラーズヴィルの戦いにおける敗北は、彼の軍歴に大きな汚点を残すこととなりました。

初期の経歴

フッカーは、1814年にマサチューセッツ州ハドリーで生まれました。祖父はアメリカ独立戦争で大尉を務めた軍人でした。彼は地元のハンプキンズ・アカデミーで初等教育を受け、1837年にアメリカ合衆国陸軍士官学校を卒業後、第1アメリカ砲兵連隊の少尉に任官されました。彼の軍歴は、フロリダ州での第二次セミノール戦争への従軍から始まりました。その後、米墨戦争ではザカリー・テイラーとウィンフィールド・スコット両将軍の作戦で参謀を務め、モンテレー、ナショナル・ブリッジ、チャプルテペクの各戦いでの活躍により、大尉、少佐、中佐と3度の名誉昇進を果たしました。この時期、フッカーはその容姿から「ハンサムな大尉」としてメキシコの女性たちに人気があり、軍隊内での色男としての評判を確立しました。

米墨戦争後、太平洋師団の総務局長補を務めた後、1853年に退役しました。しかし、ギデオン・ピローの軍法会議において、かつての上官であるスコット将軍に不利な証言をしたことで、軍での評判を落としてしまいます。その後、カリフォルニア州ソノマ郡で農場経営者や土地開発者として生活を始めますが、ギャンブルや飲酒に溺れることが多く、新たな職業での成功には至りませんでした。1858年には、陸軍長官ジョン・B・フロイドに中佐の候補者として大統領に推薦してほしい旨の手紙を送っていますが、この要望は叶いませんでした。1859年から1861年にはカリフォルニア民兵隊の大佐を務めました。

南北戦争

南北戦争が勃発すると、フッカーは再び任官を求めますが、最初の申し出は当時の総司令官であったウィンフィールド・スコットの反対により拒否されました。しかし、第一次ブルランの戦いでの北軍の敗北後、エイブラハム・リンカーン大統領に手紙を送り、軍の不適切な管理を批判し、自らの能力をアピールした結果、1861年8月に志願兵隊の准将として任命され、軍に復帰しました。彼はまずワシントンD.C.周辺の旅団、続いて師団の指揮を執り、ジョージ・マクレラン少将の下で新設されたポトマック軍の組織と訓練に携わりました。

1862年の半島方面作戦では、ポトマック軍第3軍団の第2師団を指揮し、ウィリアムズバーグの戦いでの活躍によって少将に昇進しました。彼は、戦場において重要な拠点を積極的に求める戦闘指揮官としての才能を発揮し、七日間の戦いでも頭角を現しました。しかし、マクレランの慎重すぎる指揮ぶりには不満を抱き、リッチモンドを占領できなかったことを公然と批判しました。フッカーはマクレランについて「彼は軍人ではないだけでなく、軍人とは何かを知らない」とまで述べています。この半島方面作戦を通じて、フッカーには部下の福祉と士気を重視する一方で、戦場でも酒を飲むという二つの評判が定着しました。

マクレランの軍が活動不能になると、フッカーはジョン・ポープ少将のバージニア軍に転属となりました。北バージニア方面作戦と第二次ブルランの戦いで北軍が敗北した後、9月6日にバージニア軍第3軍団の指揮官に就任しました。その後、ロバート・E・リーの軍がメリーランド州に侵入した際、フッカーの軍団（第1軍団に改組）はポトマック軍に復帰し、サウス山の戦いとアンティータムの戦いで活躍しました。アンティータムでは、北軍の最初の攻撃を指揮し、ストーンウォール・ジャクソンの軍団を南に押し戻しましたが、自身も負傷し戦場を離れることとなりました。

フレデリックスバーグの戦いでは、足の傷から回復したフッカーは、一時的に第5軍団を指揮し、その後、第3軍団と第5軍団を統括する「大師団」の指揮官に昇進しました。彼はバーンサイドの防御が施された高台への攻撃作戦を「非常識」と批判しましたが、結果としてフッカーの大師団は、バーンサイドの命令により無益な突撃を繰り返して大きな損害を出しました。フッカーはバーンサイドを「卑劣漢...失敗した犠牲の」とまで批判しました。

ポトマック軍の指揮官

1863年1月26日、「ファイティング・ジョー」フッカーは、ポトマック軍の新しい指揮官に任命されました。彼の評判は、前任者のバーンサイドに欠けていた攻撃性にあると見られていました。フッカーは、戦時下においては独裁者が国を統治するのが最適であると発言したとも言われています。

フッカーは、軍の士気回復に尽力し、食事の改善、宿営所の衛生状態の向上、補給システムの改善、病院の改善、休暇制度の改革など、多くの改革を行いました。脱走を防止するための対策や、訓練の質と量を向上させることにも注力しました。また、連邦騎兵隊を単一の軍団として組織化したのもフッカーの功績です。

しかし、フッカーは自身の本部を「酒場と売春宿」のように運営しており、部下からの信頼を失う一面もありました。彼はダニエル・バターフィールドやダニエル・シックルズのような政治的取り巻きを側近としていました。春から夏にかけてのフッカーの作戦は優美で期待できるものでしたが、実行段階でほころびが見られました。騎兵隊を敵の後方に送り込み補給線を混乱させるという目論見は達成されず、結果的にチャンセラーズヴィルの戦いでリー軍に敗北してしまいます。フッカーは、敵と接触した際に臆病になり、当初の計画を放棄してチャンセラーズヴィルの小さな町周辺に後退し、リー軍に攻撃されるのを待ちました。リーは自身の軍を分割し、フッカー軍の右翼を攻撃、第11軍団を崩壊させました。この結果、ポトマック軍は防戦を強いられ、退却を余儀なくされました。

この戦いの最中、フッカーは砲弾の衝撃で意識を失い、その日の残りの指揮を執ることができませんでした。このことが、彼の指揮官としての能力に対する部下の将軍たちの不信感を高めました。6月、リーが再び北部へ侵攻を開始した際、フッカーはリー軍を追撃するよう命じられましたが、ハーパーズ・フェリーの防衛軍の状態について本部と論争になった際、衝動的に辞任を申し出て、それが直ちに認められました。その結果、ゲティスバーグの戦いの3日前に解任され、ジョージ・ミード少将が後任となりました。

西部戦線と晩年

フッカーの軍歴は、1863年夏の不振では終わりませんでした。彼はポトマック軍の第11軍団と第12軍団と共にテネシー州チャタヌーガ周辺のカンバーランド軍の補強に転属となり、ルックアウト山の戦いでの指揮などによって、再び確固たる指揮官としての評価を得ました。チャタヌーガでの功績により、正規軍の少将に名誉昇進を果たしましたが、グラントの公式報告書では、フッカーよりもシャーマンの功績が称えられていたことに失望しました。1864年のアトランタ方面作戦では第20軍団を率いて完璧な指揮を執りましたが、他の将軍の昇進に不満を抱き、アトランタ市の占領前に解任を求めました。

10月1日からは、シンシナティに本部を置く北方方面軍の指揮官を務め、戦争終結までこの職務を全うしました。終戦後、健康を害し卒中で身体の一部が麻痺しました。1866年9月1日に志願兵を解除され、1868年10月15日に正規軍の少将として陸軍を退役しました。1879年にニューヨーク州ガーデンシティを訪問中に亡くなり、妻の故郷であるシンシナティのスプリング・グローブ墓地に埋葬されました。

フッカーは、嫌っていた渾名「ファイティング・ジョー」で広く知られています。この渾名は、半島方面作戦の際に新聞の誤植によって広まったとされています。また、彼の酒癖の悪さや好色な性格から、「フッカー」という言葉が売春婦を指す俗語となったという説もありますが、この説には根拠がないとされています。

フッカーの伝説は、その言葉の人気にも一部責任があるかもしれません。ボストンのマサチューセッツ州会議事堂の外には、フッカー将軍の騎馬像が設置されています。また、ネブラスカ州フッカー郡は、フッカーの名前にちなんで命名されました。

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