南国にて

エドワード・エルガーの管弦楽作品『南国にて（アラッシオ）』（In the South (Alassio)）作品50は、1903年の冬から翌1904年にかけて、彼が家族と共にイタリアで過ごした休暇中に作曲された演奏会用序曲です。

この作品の副題である「アラッシオ」は、イタリア北西部、リグーリア海岸に位置する風光明媚な避寒地の名前です。エルガーはこの地に滞在し、町を散策する中で目にした建造物、周辺の美しい風景、そしてその土地が持つ豊かな歴史から深い霊感を得たことを後に語っています。これらのイタリア南国の印象が、作品全体の雰囲気を形作る重要な要素となっています。

楽曲の初演は、1904年3月16日にロンドンのコヴェント・ガーデン、ロイヤル・オペラ・ハウスで行われた「エルガー音楽祭」の3日目という記念すべき機会でした。演奏はハレ管弦楽団が担当しました。当初、指揮は高名なドイツ人指揮者ハンス・リヒターが務める予定でしたが、作曲者側での楽譜の準備が遅れたため、リヒターが十分に予習する時間を取ることが困難となり、急遽エルガー自身がタクトを執ることとなりました。

この作品の中で、おそらく最も広く知られ、愛されているのは、中間部に現れるヴィオラ独奏による美しいセレナーデでしょう。この抒情的で心に染み入る旋律は、オーケストラの中では比較的目立たない楽器であるヴィオラに、異例ともいえるほど長く、そして重要な役割を与えている点で非常に特徴的です。このヴィオラの響きは、序曲全体の力強く、描写的な部分とは対照をなし、聴く者に深い印象を与えます。

エルガー自身もこのセレナーデの旋律に特別な愛着を抱いていたようで、初演から間もない同年の7月には、この部分を独立させ、イギリスの詩人パーシー・ビッシュ・シェリーの詩に音楽を付けた歌曲『月明りで』（In Moonlight）として編曲しました。さらにその後、この旋律は『カント・ポポラーレ』（Canto Popolare）と題された、様々な楽器や編成のための器楽版としても複数編曲され、独立して演奏される機会も多くあります。

作品は、エルガーの親しい友人であったレオ・F・シュスターに献呈されています。シュスターはエルガーの家族と共に、この作品の初演にも立ち会いました。

演奏時間は約20分程度で、全体が切れ目なく連続して演奏される構成となっています。

楽器編成は、フルート3管（第3奏者はピッコロ持ち替え）、オーボラ2管、コーラングレ、クラリネット2管、バスクラリネット、ファゴット2管、コントラファゴット、ホルン4管、トランペット3管、トロンボーン3管、チューバ、ティンパニ3面、打楽器群（大太鼓、シンバル、小太鼓、トライアングル、グロッケンシュピール）、ハープ、そして標準的な弦五部で構成される大編成のオーケストラが用いられています。

楽曲は変ホ長調、ヴィヴァーチェ、3/4拍子で幕を開けます。冒頭、管楽器の間で力強く受け渡されながら上昇していく、推進力のある主題が登場し、南国の輝かしい太陽や活気を思わせます。曲中には多様な楽想が次々と展開され、物語性豊かな音楽が紡がれます。特に前述のヴィオラ独奏部分は、その静謐さで聴き手の耳を惹きつけます。終結部では、冒頭の勢いのある主題が再び現れ、それまでに提示された様々な旋律や動機が集約されます。そして、全ての要素が一体となった輝かしく壮大なコーダへと突入し、華々しく作品の幕を閉じます。この終結部は、南国の強い日差しと開放感を彷彿とさせます。

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