南東北

南東北（みなみとうほく）

東北地方の南部にあたる地域を指し、具体的には宮城県、山形県、そして福島県の3県から構成されます。気象予報など専門分野では「東北南部」と称されることが一般的です。方角を示す「南」と区別するため、「東北」をひらがなで記し「南とうほく」と表記される場合もあります。古くは令制国名に由来する「南奥羽（みなみおうう）」という雅な呼び方も存在します。この地域と対になる言葉として、青森県、岩手県、秋田県を指す「北東北（きたとうほく）」があります。

地理

南東北の地形は多様で、阿武隈川、北上川、最上川、阿賀川といった主要な河川が流れ、猪苗代湖や五色沼などの美しい湖沼が存在します。燧ヶ岳、吾妻山、磐梯山、安達太良山、飯豊山、蔵王山、月山、鳥海山といった名峰が連なり、磐梯高原や会津高原、阿武隈高地などが広がっています。また、東山温泉、飯坂温泉、鳴子温泉、秋保温泉、銀山温泉など、数多くの温泉地が点在し、人々に親しまれています。磐梯朝日国立公園、尾瀬国立公園、蔵王国定公園など、豊かな自然環境は国立公園や国定公園として保護されています。

気候

南東北の気候は、奥羽山脈を境に大きく日本海側と太平洋側に分けられ、さらに小地形の影響を受けて、日本海沿岸、奥羽山脈西側の盆地、奥羽山脈東側の盆地、太平洋沿岸の4つの地域グループに分類できます。それぞれの地域が、かなり異なる気候特性を持っています。

冬

日本海沿岸地域（庄内地方など）は、太平洋側に比べて降雪量が多いものの、奥羽山脈西側の盆地ほどではありません。冬期間は曇りがちで日照時間が極端に短く、日本海からの強風による地吹雪が発生しやすい特徴があります。この風を利用した風力発電も盛んに行われています。曇り空が多く、一日の寒暖差は比較的小さい傾向にあります。

奥羽山脈西側の盆地地域（会津地方、置賜地方など）は、南東北の中でも特に寒さが厳しく、豪雪地帯として知られます。日本海沿岸に比べて日照時間は長いですが、地形的な要因もあり最も気温が低くなります。豊富な降雪に恵まれ、スキー場が多く、国際大会や全国大会が開催される場所もあります。雪質も一般的に良好で、蔵王の樹氷原コースや裏磐梯、猪苗代湖を望むスキー場などが人気を集めています。また、雪景色を眺めながら入浴できる銀山温泉のような、冬ならではの魅力を持つ温泉地も多くあります。

奥羽山脈東側の盆地地域は、奥羽山脈が雪雲を遮るため、冬でも比較的晴れやすく日照時間が長いのが特徴です。日中は暖かくなることがありますが、晴れた夜は放射冷却によって早朝の気温が大きく下がるため、一日の寒暖差が激しくなります。寒気団の南下や南岸低気圧の影響、あるいは強い風によって奥羽山脈を越えて雪雲が流れ込むこともあり、ある程度の積雪も見られます。山沿いにはスキー場もありますが、日本海側と比較すると積雪量や雪質では劣り、多くの積雪が必要なスノースポーツよりも、スノーモービルや歩くスキーなどが盛んに行われています。

太平洋沿岸地域（特に浜通り）は、冬期間を通して晴天が多く、日照時間が長い傾向にあります。積雪は他の地域に比べて極めて少なく、特に南部の浜通りは阿武隈高地が雪雲を遮るため、冬でも南関東とほとんど変わらない温暖な気候となる日が多いです。ただし、南岸低気圧の通過時には稀に大雪に見舞われることもあります。晴れて夜間の放射冷却は起こりますが、海に面しているため極端な冷え込みは少ないです。仙台市周辺は、地形的に奥羽山脈東側と太平洋沿岸の中間的な気候特性を示します。

夏

夏期間、日本海沿岸の庄内地方は、フェーン現象の影響を受けやすく、高温かつ乾燥した晴天の日が多くなります。東北地方の中でも日照時間が特に長く、湿度が低いため不快な暑さにはなりにくい特徴があります。夜間は気温が比較的下がるため熱帯夜も少なく、夏のレジャーに適した気候と言えます。湯野浜温泉のような海沿いの温泉街は、夏でも波が穏やかで浜辺が美しく、昼は暑く夜は涼しい快適な気候と、日本海に沈む夕日を露天風呂から眺められることから、人気のサマーリゾートとなっています。

奥羽山脈西側の盆地地域も、フェーン現象によって極端な高温・乾燥となることが多く、山形市では過去に日本最高気温を記録したこともあります。湿度が低いため、夜間は急激に気温が下がり、熱帯夜になりにくく、一日の中での寒暖差が非常に大きいのが特徴です。晴天が多く日照時間も長いため、日中は非常に暑くなりますが、会津地方の猪苗代湖畔は水辺が涼しく、湖水浴が盛んです。また、波がほとんど立たない猪苗代湖はウィンドサーフィン初心者にも適しており、ジェットスキーやヨットなどのウォータースポーツも人気で、東北地方におけるウォータースポーツの一大中心地となっています。山形県の月山では、夏でも残雪が多く、4月から7月末にかけてリフトが運行され、半袖で「サマースキー」を楽しむことができます。

奥羽山脈東側の盆地地域は、フェーン現象による高温の日と、太平洋沿岸のような曇天で気温が低い日とが混在します。内陸部の中通り地方などでは、フェーン現象の影響で湿度が高く蒸し暑くなることがあり、関東地方の夏に近い気候になることもあります。そのため、避暑地への需要が高く、裏磐梯を中心とした高原リゾート地には多くの人が訪れます。

太平洋沿岸地域は、夏も通常は曇天で気温がそれほど上がらず、海風が入るため酷暑となることは少ないです。年によっては「やませ」と呼ばれる冷たい北東風が吹き込み、低温で悪天候の冷夏となることもあります。全体的に夏でも過ごしやすいため、ビジネスマンや高齢者には快適な地域であり、高山外国人避暑地のような場所も存在します。涼しい気候のため、本格的なマリンスポーツにはあまり向きませんが、人口が多いため仙台湾などでは海水浴客が見られ、夏季の太平洋は波が高くなることからサーフィンを楽しむ人もいます。ただし、浜通り南部は太平洋高気圧の影響を受けやすく晴天が多いですが、日本海側ほど極端には暑くならず、湿度が高い傾向にあります。

南東北では、地域によって気候が大きく異なるため、訪れる季節や場所を選ぶことで、多様なレジャーや過ごし方を楽しむことができます。

経済

南東北の経済は、多様な産業によって支えられています。

第一次産業

農業では、広大な耕作地で稲作が中心に行われ、「ササニシキ」や「つや姫」、「コシヒカリ」など、全国に知られる多くのブランド米が生産されています。山形盆地や福島盆地では、扇状地や自然堤防といった地形を利用した果樹栽培も盛んで、東根・寒河江のサクランボや福島のモモなどは全国的に有名です。その他にも、山形のベニバナ、米沢牛や仙台牛といった高級和牛など、多様な特産品があります。漁業は、三陸海岸の一部にあたる宮城県北部から中部にかけての沿岸部で古くから栄えています。

第二次産業

工業地帯としては、いわき市、仙台港、石巻工業港周辺に臨海工業地域が形成されているほか、郡山市、仙台市、山形市、米沢市、大崎市などの周辺部に内陸工業地域が集積しています。製造品出荷額では、いわき市、郡山市、米沢市などが上位に位置し、この地域の工業を牽引しています。

第三次産業

サービス業や商業の中心は、宮城県の仙台都市圏と福島県の郡山都市圏に集中しています。特に仙台市は、東北地方全体の商業・業務機能が集積する中枢都市であり、広範な流通ネットワークの拠点となっています。商業販売額では、仙台市が突出して多いほか、郡山市、山形市、福島市、いわき市などがこの地域を代表する商業都市として数えられます。

県内総生産と規模

南東北3県の県内総生産（GPP）合計は、国内の都道府県と比較すると兵庫県とほぼ同程度の経済規模を有しています。また、人口規模においても兵庫県と同等です。国際的に見ると、3県合計の人口は約520万人（2017年時点）、経済規模は約26兆円（2015年時点、約2150億ドル相当）となり、人口規模ではニュージーランドを上回り、経済規模ではノルウェーの約半分に相当します。

面積では3県合計で約2万2千平方キロメートルとなり、北海道の約36%程度、ニュージーランドの約11%程度です。国内の他の地方と比較すると、中国地方とは総面積でほぼ同規模（可住地面積では上回る）ですが、人口・経済規模では約7割程度となります。北関東（茨城県、栃木県、群馬県）とは可住地面積ではほぼ同規模ですが、人口・経済規模は約7割程度の規模です。

交通網とメディア

南東北は、南北方向の主要幹線として東北自動車道や国道4号、太平洋沿岸を通る常磐自動車道や国道6号などが結び、東西方向には山形自動車道や磐越自動車道などが横断しており、広域的な交通ネットワークが整備されています。

県内放送については、南東北3県はそれぞれNHKと、東北地方では珍しく民放テレビ局がテレビ東京系列を除く4局全て揃っています。宮城県の放送局は東北地方の基幹局としての役割も担い、ブロックネット番組を数多く制作・放送しています。

南東北は、豊かな自然環境、多様な気候が生み出すレジャー、そして米作、果樹、水産業、さらには内陸部や臨海部の工業、広域的な商業・業務機能が集積する都市圏を持つなど、多角的な魅力と活力を持つ地域と言えます。

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