南紀派

南紀派の歴史と役割

南紀派（なんきは）は、江戸時代後期における重要な政治グループであり、特に13代将軍徳川家定の後継者を巡る「安政の将軍継嗣問題」において中心的な役割を果たしました。この派閥は紀州徳川家の徳川慶福（後に14代将軍徳川家茂となる）を将軍継嗣として推すことに尽力しました。

南紀派の形成背景

当時、徳川家定は病弱であったため、将軍としての長命や男子の誕生が期待できない状況でした。このため、家定の近親である紀州藩主の徳川慶福がその後継者として推されることが自然な流れとされました。南紀派は、井伊直弼、会津藩主の松平容保、高松藩主の松平頼胤、老中の松平忠固、紀州徳川家の付家老である水野忠央、御側御用取次の平岡道弘や薬師寺元真、さらには大奥の女性たちなどから支持されました。

南紀派の政策と思想

この派閥は、幕府の独裁的支配の継続を掲げる一方で、外交政策においては開国路線を維持することを目指しました。ただし、この開国に関しては、一橋派にも同様の志向を持つ大名が多数存在していました。南紀派は一橋慶喜（後に15代将軍となる徳川慶喜）を擁立した一橋派との対立に直面しました。

当時の将軍選定においては、これまで多くのケースで嫡男の問題が浮上していましたが、南紀派は「能力よりも血統を重視する」という姿勢を貫きました。この考え方は「祖法第一」を掲げる保守派に支持され、慶福の血筋と家定との従兄弟関係は、その根拠として重視されました。

大奥の支持

大奥の女性たちの支持も南紀派にとって重要でした。海音寺潮五郎によると、一橋慶喜の父である徳川斉昭の倹約ぶりや色好みの噂が影響し、彼が大奥で不人気であったのに対し、徳川慶福は美少年であったため人気を集めたとされています。これが大奥が南紀派を支持した一因となったと考えられています。

南紀派の勝利とその後の動き

このようにして南紀派は、将軍後継者の選定において優位な立場を確立しました。特に井伊直弼が大老としてその地位を固めることで、徳川慶福が将軍後継者として正式に選任され、家定の死後には14代将軍に就任しました。

しかし、安政の大獄と呼ばれる弾圧が行われ、一橋派の支持者や志士たちが弾圧される中で、直弼が桜田門外の変で暗殺されたことにより、南紀派の運命は大きく変わりました。その結果、一橋派が勢力を取り戻し、南紀派の主要メンバーは処罰されることとなりました。

このように、南紀派は幕末の政治的動乱の中で重要な役割を果たしつつ、派閥間の激しい争いや権力の流動性を反映した存在であったと言えます。

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