南蛮寺(なんばんじ、なんばんでら)は、16世紀後半から17世紀初頭にかけて、日本に建てられた西洋風の
教会堂の通称です。キリスト教が日本に伝来した
1549年から、徳川幕府による禁教政策が始まるまでの間、各地に建てられました。これらの
教会堂は、当時の日本人によって「
南蛮寺」や「
南蛮堂」、または「だいうす寺」「だいうす堂」などと呼ばれていました。
日本における最初の本格的な
教会堂は、
1551年に山口に建てられた大道寺です。その後、豊後、平戸、有馬、長崎、
京都、堺、安土、大坂、金沢、
駿府、
江戸など、各地に
教会堂が建設されました。しかし、
江戸時代に入り、幕府の禁教政策が厳しくなると、
南蛮寺は公然と建てられることはなくなり、既存の
教会堂も破壊されました。
南蛮寺の建物は、現存するものが一切ないため、絵画資料(
南蛮屏風など)、
宣教師の記録、教会跡の考古学的調査の結果から、その特徴を推測するしかありません。
南蛮寺は、既存の仏教寺院の建物を転用するか、新たに建てる場合も、日本人の大工によって、日本の
建築様式(特に仏教寺院の様式)を踏襲して建てられました。木造瓦屋根で、多くは
寄棟造または
入母屋造でした。屋根の上には
十字架が乗せられ、建物内部には
畳、
襖、
障子、華頭窓、
縁側などが用いられていました。
礼拝堂の入り口から祭壇に至る動線は、西洋の教会
建築のパターンを踏襲し、間口に対して奥行きが深い形になっていました。これは、例えば
入母屋造の礼拝堂を、同様式の仏教寺院の
本堂と比べると、入り口の位置と祭壇までの動線が90度回転しているような状態です。
屋根瓦には十字紋が用いられ、柱、梁、
破風、
欄間の装飾や彫り物、
襖絵、天井絵などには、キリスト教に関連するモチーフが取り入れられていたと考えられています。
京都に建てられた「都の
南蛮寺」は、
イエズス会が建てた
教会堂で、その建設の経緯は
ルイス・フロイスの書簡に詳しく記されています。当初は仏教の廃寺の建材を流用する予定でしたが、価格面で合意できず、新たに建設されることになりました。この
教会堂は、高山図書(洗礼名ダリオ)をはじめとする畿内の
キリシタン有力者の協力と寄進によって建てられ、当時日本に建てられた
教会堂の中でも最大級の規模でした。
「都の
南蛮寺」は、「被昇天の聖母教会」が正式名称で、
1576年8月15日に献堂ミサが行われました。所在地は
中京区姥柳町蛸薬師通室町西入ル付近と推定されています。しかし、1587年に豊臣秀吉による
バテレン追放令によって破壊されました。
この
教会堂の姿は、狩野宗秀筆の扇面
洛中洛外図六十一面中「都の
南蛮寺図」によって、建物の特定ができる唯一の絵画資料です。この図から、以下の特徴が推測できます。
木造瓦葺の3層楼閣風の建物である。
屋根は最上層が
入母屋造、1,2層は
寄棟造である。
2層の周囲には見晴らし用の廊下と手すりが配されている。
扇面図では、屋根の上の十字架は省略されていますが、同時期の南蛮屏風の描写では、十字架が描かれていることが多いです。また、フロイスの書簡からは、以下のような情報がわかります。
キリシタンの身分ある女性が
畳100
畳を寄進したこと。
京の職人の技術の高さ。
イタリア人オルガンティーノの
建築上の工夫。
これらのことから、「都の
南蛮寺」は、日本人大工・職人によって和風を基本としながら、ヨーロッパ特にイタリアの
建築様式やキリスト教に関連するモチーフが加味されたものと推測できます。
その他の事例
妙心寺の塔頭寺院である春光院には、「
南蛮寺の鐘」(国の重要文化財)が伝わっています。この鐘には、1577年の西暦と
イエズス会の紋章が刻まれており、同年にポルトガルで鋳造され、
南蛮寺と呼ばれた
イエズス会の
京都の教会で使われていたものとされています。
遺構例
長崎市にあるサント・ドミンゴ教会も、かつて「
南蛮寺」であったと考えられています。
参考文献
石川徹, 「65. 吾國基督教會堂の建築史的研究 : 第一部 切支丹時代」『日本建築學會研究報告』 (4), 382-385, 1949-11
森浩一編『姥柳町遺跡(
南蛮寺跡)調査概報』(
同志社大学文学部考古学調査記録2)
同志社大学、1973年。
坂本満他『南蛮美術と洋風画』(原色日本の美術20)《改定第3版》小学館、1994年。
宮元健次「『日本
イエズス会礼法指針』第七章について 16世紀日本におけるカトリック
宣教師の教会
建築方針」『日本
建築学会計画系論文報告集』423、1991年。
宮元健次『近世日本建築にひそむ西欧手法の謎「キリシタン建築」論・序説』彰国社、1996年。
宮元健次『日本の伝統美とヨーロッパ
南蛮美術の謎を解く』世界思想社、2001年。
『勝山町遺跡 長崎市桜町小学校新設に伴う埋蔵文化財発掘調査報告書』長崎市教育委員会、2003年
関連項目
日本のキリスト教史
キリシタン
教会堂
デウス堂
大道寺
サント・ドミンゴ教会 (長崎市)
セミナリヨ
コレジオ
ノビシャド