印東氏

印東氏（いんとうし）

印東氏は、下総国印旛郡印東荘を本拠とした日本の氏族です。桓武平氏良文流（系図によっては良兼流とも）に連なり、上総権介平常澄の二男、印東次郎常茂（常義）を祖とします。上総広常は常茂の八弟にあたります。また、子孫に伝わる口伝によれば、平将門の子孫であるとも伝えられています。これは平良文が将門の叔父でありながらも猶子となり、将門の次女春姫が平忠常の母であることに由来する系譜です。

平安時代から鎌倉時代にかけての印東氏

源頼朝が挙兵した際、初代常茂は平家方についたものの、息子たちは源氏方に付き、子孫は御家人として鎌倉幕府に仕えました。しかし、鎌倉幕府成立後、房総平氏の総領であった上総広常が謀反の疑いで誅殺されたことにより、印東氏の幕府内での勢力は減退しました。代わって千葉氏が房総平氏の総領となり、印東氏はその被官となることを余儀なくされました。

宝治合戦では、千葉氏と共に三浦氏方に与したため、所領の多くを失うこととなりました。鎌倉幕府滅亡後は、鎌倉公方足利氏や里見氏に仕えた記録が残っています。

印東常茂（平常茂）

平常澄の二男で、上総広常の兄です。下総国印旛郡印東庄の庄司となり、印東を称したとされています。1163年から1166年の間に兄の印南（印西・伊西）新介・常景を討ち、上総氏の総領となりました。子息には、長南重常、印東頼常、南郷師常、戸田常政がいます。

印東別当頼常（胤常）

常茂の二男です。印東庄の別当職として赴任し、「印東別当」を称しました。1180年9月4日の結城浜の戦いでは、上総広常率いる軍勢に兄の長南太郎重常や弟の四郎師常とともに従軍しています。

印東四郎（南郷師常）

常茂の四男で、上総国武射「南郷」を領し、鳴戸（成東城）を築城したと伝えられています。1195年3月10日の頼朝の東大寺供養には、「印東四郎」が参列しています。

印東太郎（常直）

1228年7月23日、将軍・藤原頼経の三浦義村の山荘への渡御の随兵としてその名が見られます。

印東八郎

1228年5月8日の御所での競馬や、同年5月13日には将軍家より御厩の栗毛の馬を下賜された記録が残っています。1236年10月5日には、興福寺の僧兵の暴挙を防ぐため、大和国の守備を命じられています。

印東次郎

1245年1月9日の御弓始の儀において、弓術に長じた御家人として三浦光村とともにその名が記されています。

印東太郎・次郎・三郎

1247年の宝治合戦では、印東太郎とその子息である次郎、三郎が戦死しました。この印東太郎は、1228年の印東太郎（常直）である可能性があり、次郎は1245年の印東次郎であると考えられます。

印東小四郎光継

1333年から翌年にかけての大光寺合戦では、曾我乙房丸方として参戦し、左膝を射抜かれた記録が残っています。

僧侶となった印東氏

日昭（1236年～1323年）

日蓮の直弟子である六老僧の筆頭で、昭門流（浜門流）の祖です。はじめ成弁と号し、弁阿闍梨、不軽院とも呼ばれました。下総国印東庄能戸の領主・印東治郎左衛門尉祐昭の次男であり、母は工藤左衛門尉祐経の娘です。のちに摂政・近衛兼経の猶子となり、法印に任じられました。兄の三郎左衛門尉祐信が印東家を継ぎ、姉は池上左衛門大夫康光に嫁ぎ、池上宗長・宗仲の母となりました。妹は下総国葛飾郡平賀村の平賀二郎有国に嫁ぎ、日朗を生んでいます。日昭は、日蓮が亡くなる際には上首と定められるほど信頼が厚く、幕府の弾圧に屈することなく、日朗とともに教団の基礎を固めることに尽力しました。また、御家人・工藤祐経の屋敷跡に法華堂を建立し、現在の材木座・実相寺となっています。

さじき女房（不詳）

鎌倉の人で、印東三郎左衛門祐信の妻であるという説や、日昭の縁故者であるという説がありますが、詳細は不明です。

室町時代から戦国時代にかけての印東氏

室町時代には、鎌倉公方に仕えて奉公衆となった一族と、里見氏の家臣となった一族に分かれました。

鎌倉公方に仕えた印東氏

平良兼から続くと伝わる一族で、代々鎌倉公方の奉公衆を務めていました。主な人物として、印東氏定（伊豆守）、印東勝胤（伊豆守）、印東胤春（出羽守）、印東次郎左衛門、印東常貞（伊豆守）、印東下野守、印東次郎左衛門・印東出羽介、印東宮内少輔などがいます。

里見氏に仕えた印東氏

里見義堯の配下として、水軍を率いる海賊衆の一員として活躍しました。里見家中での家格は、印東采女（家老）、印東六右衛門（中小姓頭）、印東河内（馬乗八人衆）、印東又七、印東長次郎、印東内匠（百人衆）、印東惠斎（茶道）などがありました。

主な人物として、印東房一（采女）、印東主膳、印東河内守などがいます。

江戸時代の印東氏

江戸時代には、南部藩、前橋藩、喜連川藩、上総久留里藩、薩摩藩などに仕官した記録が残っています。

鹿児島藩士の印東氏

印東彦兵衛を祖とし、島津家に味方して召抱えられたと伝えられています。薩摩藩士の略歴を記した『諸家大概』には、千葉氏庶流として掲載されています。

上総久留里藩（黒田家）

藩士に印東氏が見られます。

南部藩

『南部藩参考諸家系図 4』に印東氏の系図が確認されています。

前橋藩

蒲生家に仕えていましたが、蒲生家廃絶後は浪人となり、島原の乱で立花宗重とともに戦い軍功を挙げました。その後、白河で直基に仕え、幕末まで大和守家の家臣として活躍しました。

印東氏館跡

千葉県山武市成東には、印東四郎師常が築造したとされる成東城跡があります。また、千葉県成田市長沼の長沼城跡は、印東別当常閑、印東太郎師常などの城砦であったとする異伝も残っています。

関連項目

* 千葉氏

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