平良文

平良文（たいらのよしふみ）

生涯

平良文は、平安時代中期の武将で、桓武天皇の四世にあたります。父は平高望で、その五男として生まれました。官位は従五位上に至り、陸奥守や鎮守府将軍を歴任するなど、朝廷からもその武勇を認められていました。

886年、京で誕生したと伝えられ、優しい風貌の持ち主であったとされています。父・高望が東国へ下向した際、正室の子である兄たち（平国香、平良兼、平良持）はこれに従いましたが、良文は側室の子であったためか京に留まりました。しかし、923年、36歳になった良文は、醍醐天皇から相模国の賊討伐の勅命を受け、東国へ下向。見事、盗賊を鎮圧したと伝えられています。

940年の平将門の乱では、藤原秀郷や平貞盛らと共に将門討伐軍に参加。将門討伐の第一報を都に伝えたことからも、その立場が伺えます。

その後、武蔵国熊谷郷村岡や相模国鎌倉郡村岡に移り住み、村岡城を築城し、村岡五郎と称しました。しかし、その実態は謎に包まれています。さらに、下総国結城郡村岡や千葉県香取郡東庄町の大友城にも所領を持ち、香取市には居館（平良文館）を構えていたとされています。

939年には陸奥守として鎮守府将軍に任じられ、乱を鎮圧。実際に同日、出羽国で俘囚と秋田城司の軍勢が衝突しており、朝廷は陸奥守にも兵を出すように命じています。

940年に関東へ帰還し、晩年は下総国海上郡、さらに阿玉郡へと移り、952年に67歳で没したと伝えられています。香取市阿玉には、伝・平良文館とされる城跡があり、空堀や土塁、物見台などが遺構として確認されています。また、藤沢市村岡東には、村岡城跡と伝わる場所があり、東郷平八郎が揮毫した城址碑が建立されています。

村岡城の北方には、平良文・平忠光・平忠通の三代の墓所とされる二伝寺があり、その裏山には五輪塔や宝篋印塔が残っています。

源宛との一騎討ち

『今昔物語集』には、良文が源宛（箕田宛）と一騎討ちを行った説話が収められています。二人の領地が荒川を挟んで隣接していたため、家来同士の小競り合いが絶えませんでした。ついには、両者一騎打ちで決着をつけようということになり、荒川の河原で対峙。源宛が放った矢を良文が刀で打ち落とし、良文が放った矢を源宛が刀で打ち落とすという互角の戦いを繰り広げました。勝負がつかないまま戦いを終え、両者は互いの健闘を讃え合い、今後は協力して地方開発に尽くすことを誓い合ったとされています。

平将門との関係

『将門記』には良文に関する記述は少ないため、承平天慶の乱における詳しい動向は不明です。しかし、武蔵国や相模国の村岡に居て、将門側に加担していた可能性も指摘されています。千葉神社の染谷川の碑文には、伯父の平国香らが染谷川で将門を襲撃した際、良文が将門を援護し、両者が逆襲したとされています。

将門討伐には加わっておらず、手柄を立てたわけでもないにも関わらず、将門の旧領である下総国相馬郡を与えられたことは、将門との関係を推測させる要因の一つです。

妙見菩薩との関わり

将門が伯父の平国香と争った際、良文は将門に味方し、染谷川で共に戦いました。苦戦を強いられた際、良文は自害を覚悟しましたが、妙見菩薩を祀る寺院に導かれ、そこで七星剣を授けられたとされています。また、その証として良文の体に月と星の印が浮かび上がったと伝えられています。

妙見菩薩の加護を受けた良文・将門軍は、坂東八カ国を制圧。その後、良文は陸奥守、鎮守府将軍として陸奥国胆沢に赴任しました。一方、将門は神慮に背き帝威を恐れなかったため、妙見菩薩は将門から離れ、良文の元へと移ったとされています。

後世に編纂された『源平闘諍録』では、良文が将門の養子であり、妙見菩薩の加護が良文から千葉氏へと伝えられたとされています。

夕顔との逸話

晩年、良文は夕顔の花を愛し、死に際して子の忠頼に「自分に会いたくなったら、畑に植えた夕顔の実を開けよ」と遺言しました。忠頼が夕顔の実を割ると、中から観音像が現れました。この観音像は、後に千葉常重の夢枕に現れ、祀るように告げたため、大治年間に樹林寺が開かれました。近くにある良文の墓は「夕顔観音塚」と呼ばれています。

この夕顔観音は、後に保科正光によって高遠へもたらされ、信仰されました。

子孫

良文には5人の子がおり、三男の平忠頼からは千葉氏、上総氏、秩父氏、河越氏、江戸氏、渋谷氏などが、五男の平忠光からは三浦氏、梶原氏、長江氏、鎌倉氏などが生まれました。これらの氏族からさらに多くの氏族が分かれ、良文流平氏を形成。源平合戦では、源頼朝の鎌倉幕府創立に協力し、有力な御家人として活躍しました。

関連作品

NHK大河ドラマ『風と雲と虹と』では、渡辺文雄が平良文を演じました。原作は海音寺潮五郎の『平将門』『海と風と虹と』です。

脚注

注釈
出典
参考文献
平井聖・児玉幸多・坪井清足編 1980「高谷砦」『日本城郭大系第6巻 千葉・神奈川』新人物往来社 p.346
平井聖・児玉幸多・坪井清足編 1980「二伝寺砦」『日本城郭大系第6巻 千葉・神奈川』新人物往来社 pp.347-348

関連項目

桓武平氏
坂東八平氏
熊谷市#歴史

外部リンク

財団法人藤沢市まちづくり協会 村岡のおはなし
古樹紀之房間 古代及び中世の氏族系譜 桓武平氏概観

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