原宿族

原宿族（はらじゅくぞく）

1964年に開催された東京オリンピックを経て、日本の社会が変容を遂げる中で、東京都渋谷区の原宿エリアに新たな若者たちの集団が登場しました。彼らは「原宿族」と呼ばれ、当時の原宿の風景を彩る存在となります。

彼らの活動の大きな特徴は、自動車を巡る行動でした。主に週末、彼らは乗用車で原宿駅周辺へと集結し、時には騒音を立てながら走行する姿が見られました。当時の日本は、モータリゼーションの波が押し寄せ、庶民にも自動車が身近になりつつある大衆車ブームの時代でした。原宿族の自動車への関心も、こうした社会全体の流れと無縁ではなかったと推測されます。ただし、彼らが乗り回していた車は、自家用車だけでなくレンタカーも多かったと言われています。同時期には自動車メーカー系のレンタカー事業への参入が進み、それまで一般的だった保証金なしで車が借りられるようになるなど、レンタカーがより手軽に利用できる環境が整いつつあったことも、彼らのレンタカー利用を後押ししたと考えられます。

原宿族のファッションスタイルについては、様々な見方があります。一説には、同時期に銀座の並木通りに集まっていた「みゆき族」が身につけていたアイビールックの影響を受け継いでいたとも言われています。また、別の見方としては、みゆき族よりもやや洗練された、大人びた印象のコンチネンタルスタイルを好む者が多かったとも言われており、その正確なスタイルは多様であったのかもしれません。

1970年代に入ると、原宿は若者文化、特にファッションの中心地としての性格を強めていきます。「an・an」や「non-no」といった女性ファッション誌の影響力が増す中で、「アンノン族」と呼ばれる新たな若者たちが原宿にも現れます。アンノン族のファッションは、平日はアメリカンカジュアルやフォークロア、休日はカントリースタイルといったように、日常と非日常で使い分ける傾向が見られ、車や騒音といった要素に特徴があった初期の原宿族とは異なる方向性を示していました。

さらに時代が進み、1977年に原宿の表参道に歩行者天国が設置されると、原宿の若者文化は一層多様化します。歩行者天国を舞台に、ハーレムスーツに身を包みディスコサウンドで踊る「竹の子族」や、フィフティーズファッションでロカビリーを踊る「ローラー族」といった、よりパフォーマンス色の強い集団が登場します。これらの後続世代の若者たちも、広義には「原宿族」と呼ばれることがありました。1981年には、ロックンロールを歌う子供向けのステージ衣装を扱う「マヤショップ」が開店し、その衣装を着用する若者たちが「マヤ族」として認識されるようになります。

原宿の歩行者天国は、その後も若者文化の発信基地としての役割を担います。1983年頃にはパフォーマンス集団の「劇男一世風靡」が登場し、続いて1984年にはパフォーマンス集団「時代錯誤」が現れます。また、同年のアメリカ映画『フラッシュダンス』の影響を受けて、路上でのブレイクダンスチーム（RUSHなど）も誕生しました。さらに、1980年代後半の第二次バンドブームの頃には、「ホコ天バンド」と呼ばれる路上ライブを行うバンド（横浜出身のJANGOや、後のヴィジュアル系へと繋がるAURAなどが知られています）も人気を集めるようになります。こうした新しいパフォーマンスや音楽が注目を集め、多くの観客が集まるようになるにつれて、一時は隆盛を誇った竹の子族やローラー族は次第にその勢いを失っていきました。

原宿族は、直接的あるいは間接的に、その後の原宿に多様な若者文化が花開く土壌の一つを築いたと言えるでしょう。彼らに関連するグループとしては、ルート族、カスミ会、侍の会、ソサイエティ・オブ・ヤングなどが挙げられます。また、彼らの存在は当時の映画やドラマといった作品にも描かれており、1960年代の『君が青春のとき』や『インディレース 爆走』、1980年代の『Gメン'75 第274話 東京原宿族 この夏の犯罪』といった作品にその痕跡を見ることができます。

関連する歴史的背景や文化現象としては、原宿のファッション史全般、戦後日本の若者文化の一端を担った六本木野獣会、そして同時期に自動車やオートバイで騒音を立てた集団であるカミナリ族などが挙げられます。原宿族は、高度経済成長期における若者のエネルギーや新しい文化の萌芽を示す存在として、日本のサブカルチャー史において一定の位置を占めています。

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