厳震直

厳震直（げん しんちょく）：明代の官僚、その功績と生涯

厳震直（げん しんちょく）は、明代初期に活躍した官僚であり、政治家です。至正4年（1344年）に生まれ、建文4年（1402年）に59歳で亡くなりました。字は子敏といい、本貫は湖州烏程県です。彼は、洪武帝の時代にその才能を発揮し、様々な役職を歴任しました。特に工部尚書としての業績は大きく、明代初期の国家運営に重要な貢献をしました。

生涯

厳震直は、洪武年間、その富裕な家柄から糧長に選ばれました。彼は毎年1万石もの食糧を南京に滞りなく運び込み、その責任感と実直さを高く評価されました。洪武23年（1390年）には、その功績が認められ、特別に通政司参議に任じられ、その後刑部郎中へと進みました。さらに洪武25年（1392年）には工部右侍郎に転じ、翌年には工部尚書に昇進しました。

当時の朝廷では、大規模な営建事業が盛んに行われており、全国から多くの工匠が南京に集められていました。その数は20万戸にも及ぶほどでした。厳震直は、この大規模な労働力を効率的に管理するため、戸役ごとに姓名と所属する作業所を登録し、仕事を割り当てる際にはこの登録を基に交代制で人員を召集しました。このシステムにより、工事は円滑に進められました。

ある時、郷民が彼の弟甥を訴えるという事件がありました。洪武帝が震直に事情を尋ねると、彼は詳細を正確に説明し、皇帝は訴えが事実と異なることを見抜きました。このため、震直の弟甥は罪を免れることができました。しかし、その年の12月には、震直自身が罪に問われ、御史に降格されるという出来事もありました。それでも彼は、多くの刑事事件で冤罪を晴らすなど、公正な判断を下す能力を高く評価されていました。

洪武28年（1395年）、明軍が龍州の趙宗寿を討伐する際、厳震直は礼部尚書の任亨泰と共にベトナム陳朝への使節として派遣されました。彼は陳日焜に対し、趙宗寿討伐の理由を説明し、彼への協力をしないように要請しました。帰国後、彼は事の利害を詳細に上奏し、洪武帝の意にかないました。その後、彼は桂林府興安県の霊渠の修築を命じられ、現地を調査して、湘江と漓江の水を導き、5000丈もの溝を浚渫しました。また、渼潭と龍母祠には150丈を超える土堤を築きました。さらに、中江の石堤を高くし、急流には36か所の閘門を設置し、舟の航行を妨げる川原石を取り除くことで、水運を大きく改善しました。

洪武30年（1397年）には、広東の塩の流通に関する上疏を行いました。彼は、かつて広東から広西に85万あまりの塩が運ばれていたのが、今では10分の1になっている現状を指摘しました。彼は、30万8千あまりの塩を広東に貯蔵し、商人を募って広西の糧衛所の粟を運び入れ、広東の塩業を支えることを提案しました。また、江西の南安府、贛州府、吉安府、臨江府の4府で塩を販売することを提言しました。この提言は洪武帝に受け入れられ、江西に塩が広く行き渡るきっかけとなりました。同年4月には右都御史に抜擢され、8月には再び工部尚書に任じられました。

建文年間には、山東で食糧輸送を監督し、その後、官職を辞しました。しかし、建文4年（1402年）に永楽帝が即位すると、再び召し出され、工部尚書のまま山西の巡視を命じられました。しかし、同年9月に沢州で病に倒れ、そのまま亡くなりました。

厳震直は、その生涯を通じて、誠実で責任感の強い官僚として、国家運営に尽力しました。彼の業績は、後世に語り継がれるべきものです。

著書

彼の著書として『遣興集』があります。

参考資料

* 『明史』巻151 列伝第39

もう一度検索