古イタリア文字

古イタリア文字：古代イタリアの多様な文字体系

古イタリア文字は、古代イタリア半島で用いられていた様々な言語の文字を総称するものです。インド・ヨーロッパ語族以外の言語や、ギリシア語とは異なる言語系統の民族が使用していました。これらの文字は、西方ギリシャ文字を基に作られたか、または直接借用したもので、その歴史はエトルリア文字にまで遡ります。エトルリア人が西方ギリシャ文字を採用したことが、古イタリア文字の始まりであり、その後、イタリア半島全土の古代言語へと広がり、ルーン文字にも影響を与えました。

主要な言語と文字体系

エトルリア文字

エトルリア文字は、西方ギリシャ文字の26文字をほぼそのまま採用していました。ただし、全ての文字が使用されていたわけではなく、エトルリア語に存在しない音に対応する文字（/o/や特定の子音）は使われていませんでした。また、時代や地域によって使用される文字数や、同一の音を表す文字も変化しました。

例えば、/k/の音は地域によって𐌂、Κ、Ϙの3文字を使い分けたり、/s/と/ʃ/を表す文字も地域差がありました。初期のエトルリア文字は右から左へ、あるいは牛耕式に書かれましたが、後にはラテン文字の影響を受けて左から右へ書かれるようになりました。紀元前7世紀から紀元前1世紀にかけて使用され、1万3000点ほどの碑文が残されています。

オスク文字

オスク語では、紀元前6世紀のエトルリア文字を借用し、変形させて使用していました。有気音を表す文字やサンは使われず、エトルリア語にはない2つの母音のために新しい文字が追加されました。

ウンブリア文字

ウンブリア文字は地域差が大きく、北方エトルリア系の文字や共和制ローマの文字の影響が見られます。ガンマやオミクロンがない地域や、/k/と/ɡ/を同じ文字で表す地域、独特の摩擦音を表す文字を持つ地域など、文字体系のバリエーションが豊富です。

南ピケヌム文字

南ピケヌム文字はエトルリア文字に似ていますが、/o/と/f/を表す独自の文字や、単語の区切りを表す3つの点など、特徴的な要素がありました。

ファリスク文字・古ラテン文字

ファリスク語と古ラテン語の文字もエトルリア文字を起源としています。初期のラテン文字は21文字からなり、エトルリア語では使われなかったB、D、Oなどの文字が新たに追加されました。/f/の音の表記も、初期のエトルリア語と同様にFHで表すことから、後にFへと簡略化されました。また、Zは初期には存在しましたが、後にGで置き換えられ、後に再びギリシャ語からの借用語表記のために復活しました。ファリスク文字には独自の文字も存在します。

北イタリア諸言語の文字

イタリア北部のウェネティ語、ラエティア語、レポント語、ガリア語、古代リグリア語でも、北方エトルリア系の文字が用いられました。これらの文字は、北方エトルリア文字と同様に有声音の文字が少なく、独自の文字や表記法を持つ言語もありました。

Unicodeへの収録

古イタリア文字は、Unicodeバージョン3.1（2001年）でU+10300 - U+1032Fのブロックに追加され、その後も文字が追加されています。エトルリア語、オスク語、ウンブリア語など、多くの古代イタリア言語の文字が収録されています。

対応フォント

古イタリア文字に対応したフォントも存在し、これらのフォントを利用することで、古代イタリアの文字を現代のコンピュータ環境で表示することができます。Notoフォント、DejaVuフォント、Code2001、Quivira、New Athena Unicode、MPH 2B ダマセ、Aegeanなど、様々なフォントが利用可能です。

参考文献

Larissa Bonfante (1996). “The Scripts of Italy”. In Peter T. Daniels; William Bright. The World's Writing Systems. Oxford University Press. pp. 297-311. ISBN 0195079930
James P. T. Clackson (2004). “Latin”. In Roger D. Woodard. the Cambridge Encyclopedia of the World's Ancient Languages. Cambridge University Press. pp. 789-811. ISBN 9780521562560
Helmut Rix (2004). “Etruscan”. In Roger D. Woodard. the Cambridge Encyclopedia of the World's Ancient Languages. Cambridge University Press. pp. 943-966. ISBN 9780521562560
Rex E. Wallace (2004). “Sabellian Languages”. In Roger D. Woodard. the Cambridge Encyclopedia of the World's Ancient Languages. Cambridge University Press. pp. 812-839. ISBN 9780521562560

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