羽倉簡堂

羽倉簡堂：多才な儒学者・代官の生涯

羽倉簡堂（はくら かんどう）は、寛政2年（1790年）に大坂で生まれ、文久2年（1862年）に没した江戸時代後期の儒学者であり、幕府代官です。名は用九（もろちか）、字は子乾、号は簡堂の他に天則、可也、蓬翁、小四海堂など多数あります。通称は外記と称しました。父は幕府代官を務めた旗本の羽倉秘救です。

学問と初期の活動

若い頃から古賀精里に師事し、斎藤拙堂や篠崎小竹といった同門の俊才たちと交流を深めました。父の転勤に伴い豊後に移り、広瀬淡窓が主宰する咸宜園で学びました。文化5年（1808年）に父が亡くなると、その跡を継いで代官職に就き、武蔵、上野、下野、房総、駿河など、各地を転々としながら職務を遂行しました。

代官としての実績と活動

天保9年（1838年）には伊豆七島を巡視し、その記録を『南汎録』としてまとめました。天保の改革では、その原案作成を巡って御納戸頭の窪田清音と対立しますが、水野忠邦によって清音に代わり御納戸頭に抜擢されました。その後、生野銀山の視察や大坂の米倉の検査を行い、豪商に献金を求めるなど、幕府財政の再建に貢献し、勘定吟味役へと昇進しました。

晩年と著述活動

水野忠邦の失脚により職を辞し、隠居生活を送りました。その後、赦免されてからは家督を弟に譲り、読書と著述に専念しました。嘉永3年（1851年）には、磔刑に処された国定忠治を悼み、『赤城録』を著しました。この著書は、忠治を「義侠の人」として後世に伝える上で大きな役割を果たしました。簡堂が関東代官であった当時、大飢饉で苦しむ村々を巡視した際、忠治が貧民救済に奔走する姿を目にし、その高潔さに感銘を受けたと自身の記録に記しています。

また、ペリー来航後には、外敵への対策を論じた『海防私策』を著しました。晩年は幕府から召喚されても出仕せず、73歳でその生涯を閉じました。墓所は東京都目黒区の正泉寺にあります。

人物と影響

簡堂は多くの門人を抱え、その中には岡千仭、松本奎堂、原市之進、谷口藍田、鶴田斗南、太田蘭堂、稲津九兵衛、信夫恕軒などがいます。また、下僚であった川路聖謨を推挙したり、頼三樹三郎や重野成斎、斎藤竹堂といった後進を育成するなど、その学識と見識は多くの人々から尊敬されていました。養嗣子の羽倉綱三郎は、戊辰戦争で奥州に渡り、戦死しました。

著作

簡堂は多くの著作を残しました。主なものとして、『紀元通略』、『駿河小志』、『駿城記』、『西征日録』、『三律摭要』、『資治通鑑評』、『西上録』、『北行日譜』、『養小録』、『羽倉随筆』、『蠡測編』、『蒙古世譜』、『土伯特世譜』、『西土歴代帝王図譜』、『赤城録』、『読史劄記』などがあります。また、遺稿は『簡堂遺文』、『羽倉翁漢文日記』としてまとめられています。

羽倉簡堂と蛮社の獄

通説では、蛮社の獄において渡辺崋山との交流を理由に鳥居耀蔵から告発を受けそうになったとされますが、羽倉と崋山の接点は不明であり、鳥居は羽倉や江川英龍を告発する意図はなかったとする説も存在します。

まとめ

羽倉簡堂は、儒学者としての深い学識と、代官としての実務能力を兼ね備えた人物でした。その幅広い活動は、幕末の動乱期において重要な役割を果たし、多くの人々に影響を与えました。彼の残した著作や思想は、現代においても貴重な歴史的資料として価値を持ち続けています。

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