吉川覚

吉川覚：波乱に満ちた官僚、弁護士、政治家の生涯

吉川覚（よしかわ さとる）は、1906年2月7日に徳島県で生まれ、1978年1月26日に71歳で亡くなった日本の官僚、弁護士、そして政治家です。彼の人生は、内務省での官僚としてのキャリア、兵庫県副知事としての告発劇、そして衆議院議員選挙への挑戦と、波乱に満ちたものでした。

エリート官僚としてのキャリア

吉川は、熊本時習中学、第七高等学校造士館を経て、1930年に東京帝国大学法学部英法科を卒業しました。同年、内務省に入省し、宮崎県内務部土木課兼地方課に配属されたのを皮切りに、様々な役職を歴任しました。宮崎県庁では文書課長、島根県警察部では警務課長、特別高等警察課長、熊本県警察部特別高等警察課長などを務めました。その後、内務省警保局保安課、北海道庁拓殖部長、愛媛県経済部長、軍事保護院援護局指導課長、防空総本部疎開課長、同施設局人員疎開課長、島根県内政部長、兵庫県経済部長と、多岐にわたる分野でその能力を発揮しました。

福井県知事、そして兵庫県副知事へ

1947年3月、吉川は福井県知事に任命されます。しかし、これは形式的なもので、実際には現地に赴任することはありませんでした。当時、前任の知事が辞任し、後任が決まるまでの間の一時的な措置でした。その後、吉川は兵庫県に活動の場を移し、民選初代知事の岸田幸雄に招かれて兵庫県庁入り。総務部長を経て副知事に就任しました。

「県政の爆弾児」と裏金告発事件

吉川の人生において最も注目を集めたのは、兵庫県副知事時代に起こした県政の裏金告発事件です。1954年、彼は県庁内で組織的な裏金作りが行われていると告発し、知事の岸田幸雄に反旗を翻しました。この告発は、県政を揺るがす大事件となり、吉川は「県政の爆弾児」と呼ばれるようになりました。しかし、吉川の告発に対し、岸田は「事実無根」として吉川を罷免。この後、吉川は連日のように記者会見を行い、岸田の責任追及を続けました。神戸地検の捜査では、吉川が首謀者として非難した人物が起訴猶予処分となったことで、この問題は不発に終わりました。しかし、岸田知事は「県政混乱の責任を取る」として辞任。後に行われた出直し選挙では、吉川、岸田両者とも落選し、社会党推薦の阪本勝が当選しました。

弁護士、そして政治家への挑戦

兵庫県知事選での落選後、吉川は弁護士として活動を開始しました。また、政治家としての道を諦めず、衆議院議員選挙に5回挑戦しましたが、いずれも最下位で落選しました。

1955年：第27回衆議院議員総選挙（兵庫1区、無所属）
1958年：第28回衆議院議員総選挙（兵庫1区、日本国民大衆党公認）
1960年：第29回衆議院議員総選挙（徳島全県区、諸派）
1963年：第30回衆議院議員総選挙（兵庫1区、無所属）
1967年：第31回衆議院議員総選挙（兵庫1区、無所属）

その生涯を終える

1978年1月26日、吉川覚は71歳でその生涯を閉じました。彼の人生は、官僚としてのキャリア、不正を糾弾する姿勢、そして政治家への挑戦と、様々な側面から見ることができます。特に、兵庫県副知事時代の裏金告発事件は、彼の不屈の精神と正義感を象徴する出来事として、今も語り継がれています。

参考文献

歴代知事編纂会編『新編日本の歴代知事』歴代知事編纂会、1991年。
秦郁彦編『日本官僚制総合事典：1868 - 2000』東京大学出版会、2001年。
秦郁彦編『日本近現代人物履歴事典』東京大学出版会、2002年。

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