吉野行宮

吉野行宮（よしののあんぐう）

吉野行宮は、南北朝時代に南朝が置いた行宮で、現在の奈良県吉野町大字吉野山にありました。南朝の拠点として、約20年間機能しました。

歴史

1336年、足利尊氏による京都占領により建武政権が崩壊し、後醍醐天皇は京都を脱出して吉野に入りました。当初は吉水院に滞在しましたが、数日後には金峯山寺の塔頭である実城寺を「金輪王寺」と改名し、ここを行宮と定めました。

吉野行宮は、その地理的な特性から南朝にとって重要な拠点となりました。山中に位置するため、北朝や室町幕府からの掌握が困難であり、金峯山などの修験者勢力との連携も容易でした。また、河内楠木氏、伊勢北畠氏、伊賀黒田悪党といった南朝側の勢力との連絡にも便利な場所でした。後醍醐天皇は、ここから京都奪還と足利尊氏打倒を目指しました。

しかし、1339年8月、後醍醐天皇は吉野行宮で後村上天皇に譲位した直後に崩御しました。1348年1月には、高師直率いる室町幕府軍が吉野に侵攻し、行宮を焼き払いました。これにより、後村上天皇は賀名生行宮へ移らざるを得なくなりました。

その後、長慶天皇が1373年8月に吉野に行宮を戻しましたが、長く維持することはできませんでした。1379年9月には、行宮が栄山寺に移されていたことが確認されています。1392年に南北朝が合一するまで、賀名生などに行宮が置かれていたと推定されています。

南朝56年のうち、実際に吉野に行宮が置かれたのは20年弱とされていますが、この地は「吉野朝」とも呼ばれ、南朝の象徴的な場所として歴史に刻まれました。

現在

金輪王寺は、江戸時代に徳川家康の命を受けた天海によって寺号を没収され、実城寺に戻されました。さらに、明治維新の廃仏毀釈によって廃寺となりましたが、現在その跡地は公園および金峯山寺の妙法殿となっています。

没収された寺号は、吉野勢力とともに日光に移され、金輪王寺となりました。跡地には、後醍醐天皇が正妃である中宮珣子内親王のために詠んだ歌や、南朝4代の天皇が吉野について詠んだ歌の歌碑などが残されています。

参考文献

村田正志「吉野行宮」『国史大辞典 14』吉川弘文館、1993年。ISBN 978-4-642-00514-2。
森茂暁「吉野行宮」『日本史大事典 6』平凡社、1994年。ISBN 978-4-582-13106-2。
飯森富夫「吉野行宮」『日本歴史大事典 3』小学館、2001年。ISBN 978-4-095-23003-0。

関連項目

吉野城
吉水神社
如意輪寺
* 吉野神宮

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